ドサ日記 雑草帝国の辺境

都会人もすなるブログといふものを、田舎者もしてみむとてするなり。

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メイド服、巫女衣装で萌える?

本日の華は、マギー紗鳥の華麗なマジックショウです。どうぞ!――マテリアルゴースト二次小説

 拍手に促されるようにして、舞台の袖から長身の美女が颯爽と登場した。長くつややかな黒髪を靡かせ、スタイルの良い胸を張っての自信満々の歩調。観客、特に男性からの拍手と歓声が更に大きくなる。美女は舞台中央に来て、観客席の方に向かって微笑んだ。にこっ、という感じではなくニヤリという感じではあったが。
「本日はマギー紗鳥の華麗なマジックショウにようこそ。私のマジックには種も仕掛けも無い。よくその目に焼き付けることだな」
 更にニヤリ。
「さて、見ての通り私は何も持っていないし、服の中に何かを隠しているということも無い。が、道具が何も無い状況ではさすがに面白いマジックはできないからな。助手の後輩、あ、いやワトソン式見君に道具を持ってきてもらおうか。ワトソン式見君、出てきたまえ」
 マギー紗鳥は舞台袖に向かって呼びかけたが、しばらく待っても誰も出てこない。
「おい、後輩。いや、ワトソン式見君、どうした? 早く出て来るんだ。でないと、縦ジマのハンカチを横ジマにするマジックができないじゃないか」
 それでも誰も出て来ない。
「分かった。ワトソン式見君がそういうつもりなら、こちらにも考えがある。某式見蛍君が小学生の頃にもらったというラブレターを公開するぞ」
「やめてください。やりますよ、ちゃんとやりますから……死にてぇ……」
 舞台の袖から、キャスター付きワゴンを押して一人の少年が恥ずかしげに登場した。
「先輩、僕はどうしてこんな……こんな恥ずかしい格好をしなければならないんですか?」
 ワトソン式見君は、水着一着をつけているだけで、それ以外は裸だった。靴すら履いていない裸足である。
「このマギー紗鳥のマジックには種も仕掛けも無いと証明するためだ。服の袖やジャケットのウチポケットに隠すような邪道な真似はしない。だから水着なのだ」
「そ、それにしたって、競泳用の海パンにすることないじゃないですか……北海道名物のまりもっこりじゃないんですから……死にてぇ」
 そう。ワトソン式見君がはいている水着は、水泳選手がはくような超ぴったりとしたビキニタイプだった。股間がもっこりするアレだ。一般人がはくには死ぬほど恥ずかしい。
「わがままを言うな。私だって水着なのだぞ」
「先輩はなんでワンピースタイプなんですか? 先輩だって露出度の高いビキニにすればいいじゃないですか」
 すぅっ、と目を細めるマギー紗鳥。
「なんだ後輩。じゃなかったワトソン式見君。お前は私のビキニ姿を見たかったのか? 大胆でセクシーなビキニ姿を見て悶えたかったのか?」
 ワトソン式見君はほんの少し赤面しながらも、ぶるぶると首を横に振る。
「違いますよ。ただ、マジックに種も仕掛けも無いことを証明するのなら、露出度の高いビキニの方が、物を隠す可能性の面積が小さくなるから良いのではないかなぁ、と思っただけです」
「心配するな。私が着ている水着もまたワトソン式見君と同じで競泳用だ。ぴっちりと体の線にフィットしている。更に、特殊な繊維でできていて、泳ぐ時の水の抵抗を従来製品よりも三分の一に軽減するのだ」
 水着に隠された驚異の新機能を惜しげもなく披露したのに、ワトソン式見君は、全くありがたそうな表情を浮かべなかった。
「てか水の抵抗とか関係ないじゃないですか。泳ぐわけではなくマジックやるんですから……死にてぇ」
「前置きはもう良い。さ、ワトソン式見君。最初のマジックをやるから、縦縞のハンカチをくれ」
 マギー紗鳥はワトソン式見君に手を差し出した。ワトソン式見君はワゴンの上に乗っている多数の道具の中から、ハンカチを渡した。
「……ワトソン式見君、これはどういうことだ?」
「ですから、ハンカチです」
 無地の青いタオルハンカチだった。
「これでは額の汗を拭くくらいしか使い道が無いだろう。縦ジマのハンカチを横ジマにするマジックができないじゃないか」
「えー。でもこのハンカチしかありませんよ? しょうがないじゃないですか」
「このハンカチは使えないからいらない。ポイだ」
 冷たく言い放ってマギー紗鳥は無地ハンカチをワゴンの横に設置してある「ゴミ箱」と書かれた箱の中に放り込んだ。
「さ、早く縦縞ハンカチを出してくれ、ワトソン式見君」
「え? まだそのマジックにこだわるんですか? どうせみんなどういうオチになるか分かっているんですから、もう中止して次のマジックしたらいいじゃないですか。どうせ縦縞ハンカチだって用意し忘れていて無いんですから」
「いいや。何も無い空間からハンカチを取り出すのがこのマジックの主眼なんだよ」
「……ああ、そういうことですか……」
 マギー紗鳥は助手のワトソン式見君の方へ左手を差し出し、ワトソン式見君はマギー紗鳥の手に触れるか触れないかの辺りまで、自分の右手を差し出した。
 次の瞬間。二人の手の間くらいに紅白の縞模様ハンカチが出現した。
 観客からはおおおっという歓声と拍手。だけどマギー紗鳥だけは渋い表情だった。
「ワトソン式見君。私は縦縞ハンカチを出してくれと言ったんだぞ?これは横縞ではないか」
「……い、いいじゃないですか、そんな細かいことにこだわらなくても。どうせハンカチの方向を変えれば縦縞になるんですから」
「ははあ、そういうことか。ワトソン式見君の心が邪(よこしま)だからこそ、横縞(よこしま)ハンカチが出たのか」
 言ってマギー紗鳥はニヤリ。
「違いますから。そもそもこのハンカチ、僕の霊体物質化能力で出したのではなく、先輩がマジックで出したことになっているじゃないですか」
「いずれにせよやり直しだ。今度こそ縦縞ハンカチを出してくれ。じゃなくて出そう。この横縞ハンカチは使わないから、観客にプレゼントしよう」
 マギー紗鳥は邪なハンカチをくしゃくしゃに丸め、観客の方に放り投げた。なんと不思議なことに、ハンカチは約二メートルほど飛んだ辺りで、忽然と空中から消滅した。
「じゃ、今度は縦縞ハンカチでいきましょう。先輩、手を出してください」
「……いや、やっぱりこれはもうやめて次行こう、次」
「け、結局僕は振り回されるばかりですか……死にてぇ」
 マギー紗鳥は、助手に死にたがっている暇を与えなかった。夜を切り取ったような長い黒髪を軽く払い、耳を露出させた。
「では次は、耳が大きくなるマジックをしよう」
「耳か……ギョウザとイメージが変に混合しないようにしないと……間違ってギョウザ出しちゃいそうだしな」
「……と言いたいところだが」
 マギー紗鳥、ここでまたもニヤリと笑った。この笑顔が出た時、何らかの被害が出なかったことは無いと言っても過言ではない。主に被害を被るのは後輩の死にたがり少年だが。
「毎回耳が大きくなるマジックを見てばかりじゃ、お客さんも飽きているだろう。だから今回はちょっと趣向を変えてみる。もちろん、種も仕掛けも無いぞ」
「何をするんですか?」
 自信満々にイレギュラーな展開で推し進めようとするマギー紗鳥に対して、助手は不安顔で尋ねる。
「題して『マギー紗鳥の魅惑のハンドパワー』だ。驚異のハンドパワーを発するマギー紗鳥のマジックハンドで触ったら、あら不思議! 種も仕掛けも無いのに……」
「耳じゃなければ鼻が大きくなるとでもいうんですか? ピノキオでもあるまいし……」
「マギー紗鳥の手で触ると、種も仕掛けも無いのに……」
 同じ事を二回言った。CM明けのタメのつもりなのだ。マギー紗鳥、なかなかの演出家だ。お客さんも固唾を呑む。
「……なんと後輩の股間が大きくなるのだ!」
「ちょと待てシャレになんないってソレ!!」
 赤面した助手のワトソン式見君、思わずタメ口で突っ込む。
「だって、事実として、種も仕掛けも無いだろう?」
「そりゃ、ありませんけど」
「いや……『種』はあるのかな」
 意味深長な笑みを浮かべて、長身の美女はシモなネタを平気な顔して口にした。
「そういうこと言わないでくださいよ。この人、黙ってさえいれば可憐な美女なのに……」
「しょうがないな。ワトソン式見君の股間をまりもっこり級に大きくするマジックは、今日のところは保留にしておいて、次はウーロン茶を麦茶にするマジックをしよう」
 ワトソン式見君はワゴンの上に乗っていた500ミリリットルペットボトルの烏龍茶をマギー紗鳥に手渡した。
「はい。ちゃんと用意しておきましたから、サ○トリーの烏龍茶」
「紗鳥ーの烏龍茶?」
「サ○トリーです。スポンサーですから」
「はい。これはウーロン茶だ。ラベルにもそう書いてあるからな。ちなみに未開封です。後で、これを麦茶に変えた後でキャップを開けるから、その時に音が出るから分かるはずだな」
 観客に向かってマギー紗鳥が笑顔で解説する。水着姿の美女が宣伝するのだから、これがテレビCMだったらこの烏龍茶、売れるようになっただろう。
「先程は使わずに終わってしまったマギー紗鳥のハンドパワーを使えば、たったの三秒で、この烏龍茶は麦茶に変わってしまいます」
 観客席からはお約束の失笑。
「では……一、二、三、ハイ!」
 当たり前だが、500ミリリットルペットボトルのウーロン茶の見た目に何の変化も起きない。観客たちがまたも笑いを漏らす。
「あ、これは、ラベルは『烏龍茶』と書かれたままだけど、中身は麦茶に変わっているからな。飲む時にジャマになるから、ラベルは剥がしておきましょうか」
 言ってマギー紗鳥は真珠のような爪でラベルの点線部分を摘み、ビリビリと破き剥がす。剥がしたラベルは先程の「ゴミ箱」へ投入。
「あっ、先輩、ダメじゃないですか!」
 突然、ワトソン式見君が眉毛を吊り上げて怒鳴り始めた。
「ゴミはちゃんと分別して、ペットボトルのラベルはプラスチックですからリサイクルに出さないと」
「ワトソン式見君、細かいことにこだわりすぎだぞ」
「ダメです。社会のルールはちゃんと遵守しないと」
「マジックショーの最中である今やらなくても良いだろう。後で分別すればいいだろう」
「ま、まあ、ちゃんと分別するなら、いいんですけど……」
「なんだ、ワトソン式見君。股間を大きくするマジックを中止したからって拗ねているのか?」
「力一杯、激しく違いますから……死にてえ」
「はい、では気を取り直して、次のマジック行きます。このウーロン茶……じゃなかった麦茶を、マギー紗鳥が異世界から召喚した透明人間に一気飲みさせます……いでよ! 透明人間!」
 マギー紗鳥は空中に差し出していた「麦茶」のペットボトルから、そっと手を離した。ペットボトルは万有引力の法則に従って下に落ち……ず、空中に留まっている。
おおっ、と観客のどよめき。目を凝らしても、ピアノ線の類はどこにも無い。
 空中に浮いたペットボトルは、それこそ透明人間に持って運ばれているかのように、マギー紗鳥とワトソン式見君の周りをゆっくりと一周した。二人の真ん中で止まったペットボトルは、空中に浮いたまま、キャップが捻られた。マギー紗鳥もワトソン式見君も何もしていないのに、である。
 パキッ、と音がして、未開封であったことが今、証明された。外されたキャップは例の「ゴミ箱」の中に放り入れられた。
 そしてペットボトルは上下逆さまになり、……しかし中身の「麦茶」は床に撒かれることは無く、まるで誰かが飲んでいるかのように、中の液体は虚空に消えて減って行く。
 観客からは拍手。歓声。いかに手品関係に詳しい人にも、種も仕掛けも想像がつかない高度なマジックであった。
 一気飲みはさすがに透明人間にもキツかったらしく、途中で一息ついたけど、それでも500ミリリットル全部を飲み干した。ラベルを剥がしてあるペットボトルは中身が無くなり、無色透明だ。透明人間は空になったペットボトルをバリバリと握りつぶし、「ゴミ箱」へイン。
「じゃあせっかくだから、私が異世界から召喚した透明人間にインタビューしてみよう。とはいっても、お客さんには、透明人間がどこにいるか分かり難いだろうから、透明人間に服を着せてみることにしよう。ワトソン式見君、例の服を」
「はい」
 ワトソン式見君がワゴンの上から取り出したのは、白い和式の上着と、赤い袴。いわゆる巫女服だった。マギー紗鳥が空中に上着を広げ、それに対して透明人間が自ら袖を通すような動きのような、やや不自然な動きに見えたが、透明人間は続いて袴もはいた。首から上や手足など、露出するべきはずの部分が透明で見えないことを除けば、立派な巫女さんの出来上がりだった。中の透明人間に比して巫女服はややサイズが大きいようで、ゆったりと着ているように見えた。
「えー、では。透明人間さん。あなたのお名前は?」
 マギー紗鳥は巫女服の透明人間の口がある辺りにマイクを突き付けたが、マイクは声を拾わなかった。
「遊ぶ兎と書いてユウ、だと言っていますよ」
 溜息混じりにワトソン式見君が言った。
「では、好きな食べ物は?」
「……」
「いくらだと言っています」
「好きなテレビ番組は?」
「……」
「萌えアニメだそうです」
「何かご自由に一言どうぞ」
「……」
「さっき飲んだのは、麦茶じゃなくてやっぱりウーロン茶のままでした、だそうです」
「……よ、余計なことを……では、次に見たいマギー紗鳥のマジックは?」
「……」
「黒ヒ●危機一髪、だそうです」
「はい。透明人間のユウさんでした。どうもありがとうございました」
 マギー紗鳥が巫女服の透明人間に向かって一礼すると、巫女服も前屈みになった。お辞儀したらしい。透明人間は巫女服を着たまま舞台の袖に引っ込……もうとしたが、マギー紗鳥とワトソン式見君のいる辺りから二メートルほど離れた辺りで、巫女服が中身を失ったかのように床に落ちてしまった。
「あっ!」
「……あちゃー……」
 マギー紗鳥とワトソン式見君にとっても、これはちょっと誤算だった。
「ちょっとしくじったな。透明人間ユウは巫女服を残して時間切れで異世界へ帰ってしまったようだ。ワトソン式見君、脱げ落ちた巫女服を片付けるついでに、次のマジックで使う棺桶を持って来てくれたまえ」
「はい」
 ワトソン式見君が、途中で巫女服を拾って舞台袖へ一旦退場。その間にマギー紗鳥が観客へ向かって次のマジックの説明をする。
「次が最後のマジックだ。種も仕掛けも無い棺桶に入った人間に対して、上下左右から棺桶ごと剣で滅多刺しにするという、まあ、良くあるアレだ。徹底的に刺しまくるが、それでもあら不思議、中の人間は無事ですからね。棺桶の中に入る人間は、ワトソン式見君でも良いのだが、まぁこういうのはせめて私に匹敵するくらいの美女でなければ絵にならないからな。ええと……そうだな。観客席の最前列にいる、そこのすごい綺麗なお姉さん、舞台上に上がって来てくれますか?」
 マギー紗鳥に呼ばれて台上に上がったのは、華奢でほっそりした体つきの美少女だった。現守高校の制服を着ている。白磁のような白い肌だが、今は観衆に注目されているからだろうか、かなり赤面している。マギー紗鳥は目を細めて顔をしかめながらも、美少女にマイクを向ける。
「あー、私は『私に匹敵するほどの美女がいい』と言ったのになぁ。私は、この巫女む……いや、この人の隣に坐っていた美人を指名したつもりだったんだけどなぁ」
「い、いいじゃないですか。だってこのままじゃ、私、出番無いままで終わりそうでしたから……」
「しょうがないな。……では、お名前は?」
「か、神無鈴音です」
「はい。巫女むす……神無さんは、趣味は何ですか?」
 本来舞台に上がるはずのサクラだったら、突然の質問にうろたえることもなかっただろうが、神無鈴音はイレギュラーだ。しかも、突発的な事態に弱かった。
「え、そ、そんなこと聞くんですか? え、ええと……読書です」
「どんな本を読みますか?」
「幽霊関係の資料を」
「え?」
 神無鈴音、己の失言を悟った。観客席もドン引きしている。
「あっ! いえっ、あの、レレレ恋愛小説ですっ」
「神無さんの初恋はいつでしたか?」
「えっと……それは……よ、幼稚園の時です。同じひまわりぐみのたっくんです」
「……」
「……」
 まるで、爆弾の導火線が焼けるのを待っているかのような、イヤな間だった。
「……ホントか巫女娘?」
「……ほ、ほんとですよ? 初めてキスしたのもその、たっくんでしたよ?」
「……ナイスバディのグラビアアイドルの嘘っぽいプロフィールじゃないんだぞ。嘘を言うならもっとまともな嘘を言え」
「うぅ……」
 そうこうしているうちに、ワトソン式見君が、キャスター付きワゴンに載った棺桶と二十本ほどの鋭い剣と、実物大の藁人形を用意していた。
「はい。こちらは棺桶だ。中に人が入ったら、頭と足だけは出るようになっている。もちろん種も仕掛けもないぞ。ほら」
 マギー紗鳥とワトソン式見君の二人で、棺桶を一旦展開して、観客に示す。本当に何も仕掛けは無さそうだ。
「そして、こちらの剣も本物だ。切れ味を確認するために、試しにこの藁人形を斬ってみようと思う」
 マギー紗鳥は藁人形に正対すると両手で握った剣を頭上に振りかぶり、気合いと共に袈裟切りに振り下ろした。長い黒髪が優雅に靡き、バサッという生々しい音を残して藁人形の上半身は床に滑り落ちた。そこらの百円ショップで売っているなまくら包丁あたりとは比較にならないほどの、真っ直ぐな切り口だった。見事な剣技を披露したマギー紗鳥がニヤリと壮絶に笑う。美人なだけに様になっている。観客席の男女から賞賛の溜息が洩れた。
「さて、神無嬢には棺桶の中に入ってもらおうか。ワトソン式見君は斬殺された藁人形を片付けておいてくれ」
 神無鈴音は棺桶の中に横たわった。頭と足が棺桶の外に出ることにはなっていたが、顎のすぐ下ぎりぎりと、足首の方もくるぶしの下まで棺桶の長さがあった。鈴音には、ちょっと棺桶のサイズが大きすぎるようだ。
「真儀瑠先輩」
 閉じた棺桶にがっちり鍵をかけているマギー紗鳥に対して、鈴音がどこか不安げな小声で話しかけた。
「なんだ、巫女娘」
「このマジックには、どういうトリックがあるんですか?」
「無いぞ、そんなもの」
「え?」
 巫女娘神無鈴音の視線が、一瞬虚空を泳いだ。
「だから最初から言っているだろう。マギー紗鳥のマジックには種も仕掛けもありません、と。さっきから、私のやっているマジックには、種も仕掛けも無いことは、巫女娘ならよく分かっているだろう」
「はい。何も無い場所からハンカチを出したのは蛍の物質化能力ですし、ハンカチが消えたのは物質化範囲の二メートルから外れたから。ウーロン茶は麦茶には変わっていないそのままだし。ペットボトルの空中遊泳はユウさんが持って歩いただけ。フタ開けて飲んだのはユウさん。ユウさんが巫女服を着たのも、物質化範囲だったからで、脱げ落ちてしまったのは物質化範囲から出てしまったからですよね。確かに一つも種も仕掛けもありませんでしたね。幽霊を見ることができない一般人にしてみれば種も仕掛けも思いつかないような驚異のマジックだったでしょうけど。ビデオにも映らないでしょうしね」
「この棺桶にも、さっきの剣にも種も仕掛けも無いぞ」
 種も仕掛けも無いと言い張るマジシャンは自信満々に言い切ったが、マギー紗鳥の自信に反比例して、神無鈴音の不安は底無しに広がって行った。
「ちょっと待ってくださいよ真儀瑠先輩。この棺桶、本当に退避する場所も何も無いのに、あんな剣を刺したりしたら、私、本当に死んじゃうじゃないですか。焦らさなくていいですから、どういう仕掛けがあるのか教えてくださいよ」
「だから種も仕掛けも無いんだよ。くどいな巫女娘」
 鍵をかけて棺桶を密閉し、鈴音を逃げられなくしたマギー紗鳥は、剣を一本手に取り、ニヤリと微笑んだ。
「本当はな巫女娘、お前ではなく、お前の隣に座っていた人を指名するつもりだったんだ。あの巫女服の美人、お前のお姉さんだろう?」
「そ、そうですけど……」
「この棺桶も、お前のお姉さんのサイズに合わせて作ったのに、お前が出しゃばって上がって来てしまったから予定が狂ったではないか」
「……で、姉を指名する予定だったことと、このマジックに種も仕掛けも無いことにどういう関係があるんですか?」
「お前のお姉さんほどの霊力を持っている人ならば、棺桶に閉じこめられた状態で剣に刺されても、問題なく生き残れるだろう。事実、事前の打ち合わせではお姉さんは平気だと余裕綽々の態度で言っていたぞ」
 鈴音の姉である神無深螺とマギー紗鳥の間に協定ができていたとは。もちろん鈴音はそんなことは今初めて聞いた。
「ええええっ! わ、わ私は、この状況で刺されて、生き残る方法なんてありませんよ!? どうするんですか?」
「それは私に言われてもな。当初から、棺桶の中に入った人がなんとかする予定だったのだから、私が対処法を考えているはずがあるまい。巫女娘が自力でなんとかしてくれ」
「や、や、やめてください!私、まだ死にたくありませんから!」
 赤面症の巫女娘は珍しく顔面を蒼白にしていた。往生際悪く、箱の中で暴れ出す。
「ジタバタするな巫女娘。初めてだから怖いのは分かる。体の力を抜いて、自分の肉体の中に入ってきたモノを素直に受け容れるんだ。多少は血が出るかもしれないが、痛いのは刺さった最初だけだから。私も、なるべく優しくするから」
「言い方がなんかえっちっぽいんですけど! ……てか、死にますって! 剣を構えないでください。蛍、ユウさんも、黙って見てないで真儀瑠先輩を止めてよ!」
 巫女娘は滂沱と涙を流しながら絶叫している。ワトソン式見君も、一般人には見えないが透明人間も事態を静観するばかりで何もしようとしない。剣は切れ味鋭い本物なのだから、下手にマギー紗鳥を止めに入ったりしたら、自分が怪我をしてしまうかもしれない。自分が指名された訳ではないのに出しゃばって来た鈴音を助けるために、藁人形の二の舞となるのはごめんだった。
「大丈夫だよ、鈴音。観客席には看護士の春沢さんも来てくれているみたいだし、万が一の時は治療してくれるよ」
 いつも通りのワトソン式見君の突き放したような言い方は、冷凍いくらよりも冷たかった。
 マギー紗鳥の黒い瞳に妖しい光が閃き、手にした剣は照明を照り返して無垢に輝いた。
「ちょ、ちょ、ま、マジでやめてくださいよぅ! なんで、なんで私ばっかりこんなヒドい目に! ……もう死にたいよぅ……」
 鈴音は涙を流してマジ泣きしていた。
「ちなみに、CM明けはお待ちかね大喜利のコーナーだからな。巫女娘も死んでなんかいる場合じゃないぞ。しっかり観ろよ? 万一死んじゃったとしても、スポンサーの毎○香のお線香をあげてやるから心配すんな」

 以下、描写割愛。

メイド服、巫女衣装で萌える?

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