ドサ日記 雑草帝国の辺境

都会人もすなるブログといふものを、田舎者もしてみむとてするなり。

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メイド服、巫女衣装で萌える?

アマゾンレビューでついにベスト1000

本を読んだら、特に最近のものはなるべくアマゾンでレビューを書いています。自分的に、読んだという記録と、文章表現の練習と、他者に対して少しでも指針になればというのと。諸々の細かい意義を見いだして書いているわけです。
これには三つほどの数字がつきまといます。
一つは単純にレビュー数。
今ひとつは参考になった票数。
そして、レビュアーランキング。
現在、レビュー数は471。参考になった票数は1021。
そして、今までは四桁だったランキングが、997位になりました。
ちょっと嬉しいですね。
まあ、あまり大きく数字にはこだわっていません。ブログのランキングの時とかも思ったことですが、こういうのって常に変動するものですし。本当に本気でこだわるのなら、書くネタはいっぱいあるのですから、もっともっと気合い入れて書いています。あまり数字にこだわっていないから、日常の息抜き程度のマイペースで増やしているのです。
でも、それなりの数を書いてきたからには、一度でいいからベスト1000レビュアーの称号くらいは瞬間的にでもいいので冠してみたいと思っていました。

一番最初のレビューって、これでした。日付は2004/5/30。

『パメラパムラの不思議な一座』葛西 伸哉
エンターブレイン。

つまり三年ちょいで471レビュー。一年で160くらい。二日で1弱くらい。
ほんとに無理せずマイペースですね。
今後も無理せずマイペースで続けて行きたいです。
本来ならばノートにでも読書記録を書くのがいいのでしょうけど、せっかくこういうページもあることですし、他人に公表することである程度の評価を受けることができるのが参考になります。ある程度ですが。
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メイド服、巫女衣装で萌える?

テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌

最初だけでなく、継続が大事

地元に、新しい本屋ができました。売り文句は、近隣最大の冊数。
行ってみました。場所としては市街地のほぼ中心部。大きな駐車場がある場所なので、立地的には文句のつけようはありません。
店は……確かに近隣最大に間違いなさそうです。売り場面積も広いですし、かといってスカスカでもありません。
品揃えもいいです。岩波文庫、ちくま学芸文庫なども豊富にとりそろえてあります。
専門書も豊富です。歴史学なら、西洋史なんかの本も多数。
学習参考書も多いようです。小論文とか。
ちょっとチェックを忘れたのですが、資格関係の本はどうですかね?
コミック、ライトノベルは、これも多い方だと思います。新刊も入りが早いようです。

長々書きましたけど、地元の人以外にとっては全く意味がないですね。
そもそも、地元がどこであるかも明記してはいませんし。分かる人には分かると思いますけど。

私が言いたいのはここから。これは恐らく全国各地に共通すること。
こういう新装開店の大型量販店って、出だしは勢いいいんですよ。
お客さんも来ます。珍しいから。
でも、新刊の入荷を早く的確にする、マニアックな品揃えを維持する、というのが無ければ、いずれ飽きて、お客さんも近場に行っちゃったり、アマゾンあたりで済ませちゃったりします。
そうなると、縮小運営、あるいは閉店なんてことになります。
今まで何度も、そういうのを見てきましたので。
ただこういうマニアックな本を扱うリアル本屋ってのは絶対必要なので、縮小しないで残ってほしいとせつに思います。


初心者さんの安心駐車!バックによる衝突防止にパーキングストップ。健康マーケット來來



メイド服、巫女衣装で萌える?

テーマ:日記 - ジャンル:日記

夏の高校野球。地方大会が開幕

この記事、日付は日曜日ですけど、随分後にアップしています。
ついに始まりました。夏の高校野球。たまには、ということで、思いっきり足をのばして開会式から見に行ってきました。
ケータイで写真撮ったけど、やっぱり小さかった……球場は空いていて、もっと近くからでも撮れたのですが、わざわざ遠くから撮っています。

選手宣誓


選手宣誓。
白樺学園の森キャプテンです。白樺学園は去年の秋季大会でも、今年の春季大会でも選手宣誓クジを引いており、三回連続だそうです。でも森主将が選手宣誓をするのは初めてだそうで。秋の時は甲子園でのケガで出場できず、春は例の特待生問題だったそうで。


バックスクリーン


あとはバックスクリーンの写真。
開幕戦に先だっての始球式は、中札内高校の選手がバッテリーでした。もう生徒募集停止になってしまった学校です。いざ投げる、という時に、先攻である音更高校のトップバッターが打席に入っていませんでした。「バッター入って!」と言われて慌ててボックスに入っていました。場内からは笑い。

森主将はキャッチャー、ということで、大会規則で着用が義務づけられています。

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メイド服、巫女衣装で萌える?

テーマ:高校野球 - ジャンル:スポーツ

長いシリーズは、読者にも持久力がいる

本を読んだら、ほぼ確実にアマゾンでしょぼいレビューを書いています。
どんなつまらなくても、ただ読んだ、ではなく、どこに問題があったのか。どういう内容だったのか。などを書いて、まあ他人に参考にしてもらうというよりも、自分的記録としてという側面が強いですけど。
でも、現在460くらいのレビューがありますが、生涯に読んだ本の全てではありません。昔に読んだ本は、暇がある時に少しずつ書くようにはしていますが、内容も忘れがちですし、そもそもどの本を読んだかすら覚えていないことも多いです。
最近読んだ本であっても、今更レビューを書きにくいのもあります。
長編シリーズの途中ですね。
というわけで、長編シリーズということで、最近読んだ本、あるいは買ってこれから読む本をアップしておきます。
名前を出すだけです。それについてレビューは、書かない、書けないと思いますので、期待はずれですいません。


『創竜伝13〈噴火列島〉』田中 芳樹
講談社文庫。


『紅鶴城の幽霊 グイン・サーガ 114』栗本 薫
ハヤカワ文庫。


『リアルバウトハイスクール 15―召喚教師』雑賀 礼史
富士見ファンタジア文庫。


『天を決する大団円 上』ろくごまるに
富士見ファンタジア文庫。


メイド服、巫女衣装で萌える?

テーマ:読書メモ - ジャンル:本・雑誌

マテリアルゴーストシリーズのキャラクター人気投票結果?

以前に、マテリアルゴーストシリーズ完結、ということに関して記事を書きました。
↓コレです。
http://chanteclair.blog48.fc2.com/blog-entry-601.html
この中で、ヒロイン約9人、他登場人物について、好きな順番に色々書いてみました。
話は変わりますが、マテゴのファンページがありまして、そこでキャラ人気投票というのをやっていました。
↓コレです。
http://vote2.ziyu.net/html/material.html
結果を見れば、私の言いたいことは分かると思います。

マテゴシリーズを好んで読む人の嗜好、思考というのは、似たような傾向にあるんですね。

私の序列が、
真儀瑠紗鳥、神無深螺、神無鈴音、ユウ、日向耀、篠倉綾、式見傘、雨森沙里、アリス。
でした。ヒロインだけ数えると、ですね。ここでいうヒロインというのは、主人公である式見蛍に対してラブであり、くっつく可能性が無いとは言い切れないキャラのことですのでご了承くださいませな。
それに対して人気投票の序列は……現時点で、ですが……
真儀瑠紗鳥、神無深螺、神無鈴音、式見傘、日向耀、アリス、篠倉綾、ユウ、雨森沙里。
でした。最終巻に登場しただけのサリーが最下位は仕方ないとして、それを除けばメインヒロインであるユウが最下位だよおい……最終巻だけ登場のアリスにも抜かれている。
逆にいえば、メイン以外の他のヒロインもとても魅力的だった、ということになるんでしょうけど。

見てびっくりというか、納得というか。真儀瑠紗鳥、神無深螺、神無鈴音という一位から三位までは、私と人気投票は一致していますね。
耀と綾が中盤から下位くらいというのも妥当ですかね。
ユウと傘の順位が、私と人気投票では入れ替わっているような形です。これは、私は妹萌え属性ではないということがあるんでしょうね。ユウと傘はキャラ的にはかなりかぶっていますから、妹ではないユウの方を、私は好んだということでしょう。

今後の、キャラ練りの参考にしたいっす。


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テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌

夏の高校野球。北北海道の展望を勝手にダベる

去年の本荘問題など、色々あって嫌気がさしてしまった高校野球。今年に入ってからは例の特待生問題があって、もうほんとウンザリなのですが。
それでも、甲子園を目指して球児が頑張っているのは事実でしょう。
どのチームが甲子園に行くのか、楽しみなのは間違いないです。諸々の問題があることを計算に入れてもね。
というわけで、自分的地方大会の展望でも書いてみます。
もちろん、私は高校野球に詳しいわけでもなく、情報も大したありません。以下に書くことは、根拠の無い妄想だと思っておいてください。
なお、私は北北海道の者ですので、当然北北海道の展望です。全国最弱地区ではありますが、めざせ旭川スタルヒン、そして甲子園、闘いは熱いです。

まず、支部を勝ち上がって、旭川スタルヒンに行けそうなチームはどこかを考えてみましょう。
もう組み合わせが決まった釧路支部から。
Aブロックは武修館でしょうね。春は特待生問題で出場辞退したためノーシードですが、たぶんぬきんでていると思います。
Bブロックは釧路江南。春も、釧路地区で代表になっていますし、例年釧路では安定して高いレベルにあります。スタルヒンでどれだけ勝てるか、ですね。
Cブロックは分かりません。
名寄支部も組み合わせは決まっていますが、ちょっと分かりませんね。
Aブロックの稚内大谷は北北海道大会に行けそう、かな。
空知支部。実はここが、今年からの目玉ですね。
南北空知支部が合併して全空知になりました。南空知勢、もっとはっきり言えば駒大岩見沢が北北海道に乗り込んできた形です。
Aブロックは駒大岩見沢が来るでしょう。B、Cは分かりません。
北見支部は、明らかに強いのが遠軽。
十勝支部が、けっこう読みにくいですね。去年だったら白樺学園がずば抜けていて、実際甲子園に行きましたが、中川、大竹口、中村などの主力が抜けた後は、ちょっとイマイチ。去年の甲子園で、試合直前に怪我をしてしまった森捕手がキャプテンになっているはずですが……打力はあるようですが、投手力不足なのか守備がもう一つなのか、取った分だけ失点も多い模様。
帯広工と帯広三条が有力でしょうか。
そして毎年本命の旭川支部ですが。
旭川大高、旭川南、旭川実、旭川龍谷、の順番で有力かな、と思っています。
旭川南はセンバツにも出場し、初戦敗退だったけど締まった投手戦を演じました。左の浅沼投手を擁していて、強いのは確かでしょう。機動力も高いレベルにありそうです。
ただ、打力がやや不安に思えます。甲子園で打てなかったのは仕方ないとしても、北海道レベルでもあまり打てているとは言えないです。浅沼投手がいますから、少ないチャンスを活かす野球でいいとは思うのですが、投手優位の春とは違って打撃優位の夏は、やや降りかと思って、旭川大高より一つ下に序列、ということにしてみました。
旭川大高は、得点能力が高そうなので、夏は有利かなと。春季大会においても旭川支部で優勝していますし、全道でも東海大四に勝って一勝しています。
三番手には、ノーシードになるでしょうけど、北山投手が復調して、北海や北海道栄と練習試合でいい試合をしていた旭川実でしょうか。旭実が旭川支部のジョーカーです。どこのブロックに入るかで、結果が大きく左右されそうです。
旭実が同じブロックに来なければ、旭川龍谷が支部を勝ち上がって行きそうです。まとまりと勝負強さがありそうです。

北北海道代表として甲子園に行けそうなのは、上記で名前を挙げたチームのどこかかな、と勝手に思っています。もちろん、名前を挙げなかったチームにも、私のヘボ予想を覆すような活躍を見せてもらいたいのですが。

本命は、遠軽かなー。個人的に、三度目の正直で甲子園に行ってほしいというのもあるのですが。
遠軽は毎年、林監督の意向で打撃のチームを作ってきます。だから、秋季や春季では、北見支部では勝てるけど、全道レベルではイマイチ勝てていません。その時点では、投手力の方が優位ですから。
ただ、夏に、去年、一昨年と同レベルくらいの打撃力のチームを作ったとしたら、今年の遠軽は行けるのではないかと。エース西村投手がいますからね。
西村投手は去年もエースとして活躍しました。今年は三年生として、やってくれるんじゃないですかね。春季大会も、駒大岩見沢に負けはしましたけど、いいピッチングはしています。打撃陣が奮起して、相手投手を打ち崩す力をつければいいのです。
というわけで、投手力と強力打線の噛み合った遠軽が本命、と私は考えます。

遠軽に続くのはどこか、と考えますと……今年から参入の駒大岩見沢が来そうかな、と。ここも、ヒグマ打線と言われて、打力は伝統的にあるのですが、去年、今年あたりは投手力もいいみたいですし。長年南北海道でもまれてきたチームですから、北北海道で簡単に負けるわけにはいきません。

やはりどうしても外して考えられないのが、地元旭川勢です。旭川勢については、支部の組み合わせすらまだ決まっていませんし、どこが出てくるかも、混沌とした状況で分からないのですが、勢いに乗れば旭川実業が来そうかな、と思っています。北山投手の復調と、組み合わせ次第ですけどね。勢いに乗れなかったりクジ運に見放されたりしたら、案外下の方でコロッと負けるかもしれませんが……恐らく旭川勢では旭川南が本命視される中で、ダークホースとしてしぶとく勝ち上がってほしいです。

とまあ、かなり大胆な予想です。が、上で名前を挙げたチームなら、充分に甲子園を狙えると思いますし、まだ支部予選すら始まっていないのですから、どこにもチャンスはあるはず。熱闘を期待したいです。
チャンスがあれば、今年もまたスタルヒン球場へ観に行きたいです。


南北海道も組み合わせ決まっていますが、室蘭支部あたりは凄いことになっていますね。
室蘭支部Aブロックは初戦から駒大苫小牧×鵡川とかありますし。Aブロック内には室蘭大谷もいますし。
Cブロックは第二シードの虻田と特待生問題の煽りを受けてノーシードの北海道栄が初戦で激突ですし。虻田はねー、2000年だったでしょうか、有珠山が噴火した時に学校が閉鎖になったりして、苦労していましたからね。そのチームが北海道内で最もレベルの高い室蘭支部で、シード権を取るまでになったというのはすごいですよ。特待生問題の間隙を縫ったという側面はもちろんあるのでしょうが。今年の夏に南北海道で優勝するというのは、かなり難しいかもしれないけど、できるだけ、一つでも上に勝ち進んでほしいですね。次の秋季大会につながれば、21世紀枠という可能性も出てくるでしょうし。気の早い話でスマン。
今年から南空知が北北海道へ行きましたから、北が駒大岩見沢、南が駒大苫小牧、という兄弟校出場、というのも、一度でイイから見てみたいです。

最後に、駒大苫小牧といえば、楽天の田中将大投手がプロ入り初完封勝利だそうで、おめでとうございます。
しかもMAX151キロも出たらしい。
今後もこの調子で頑張ってほしいです。


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テーマ:野球全般 - ジャンル:スポーツ

Carl Zeiss。田舎では野鳥がある意味時報?

田舎だからかどうか、そして天気がいいからかどうか。朝の五時丁度にカッコウが鳴きました。
丁度、ってところがなんかすごいです。まるで計っていたかのようです。
ちなみに先日は朝の四時にヤマバトが鳴きました。
鳥というのは、結構早起きなのでしょうか。
もしバードウォッチングとかするなら、早起きが必要なのかな?
野鳥なんていうのは、身の回りに数え切れないほど種類がいるのですが、見た目で分かるのはカラスとかスズメとかトビとか。鳴き声で分かるのは、カッコウ、ヤマバト、ウグイスなど、限られた有名どころだけですよね。
なんか、もったいない気もします。
カール・ツァイスの双眼鏡で野鳥観察なんかができるくらいの心境になれればいいのですが。


Zeiss(ツァイス)ポケット双眼鏡10×25BT* Victory Compact。ネイチャーランドKYOEI



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テーマ:散策・自然観察 - ジャンル:趣味・実用

柳の下にドジョウは何匹いるか?オノエヤナギが知っている

これがオノエヤナギの木です。
オノエヤナギ

オノエヤナギは縁取りが丸くて、裏側に反り返っているのが葉の特徴。
川辺に生える柳なので、木陰が川の魚の住みかになるし、落ち葉が川の虫にとっての食料になったりしていて、生態系を形成している。
と案内板に書いてありました。
なるほど。
柳の下に二匹目のドジョウ、という慣用句がありますが、あれはあながち間違いではないんですね。本当に柳の下が魚の棲みかになっていたとは。
木は、ただ単にそこに生えているだけではなく、生えていることにより、周囲に様々な影響を及ぼしているのです。
勉強になりました。


蒲焼【どじょうの蒲焼き(大小詰合わせ)】。 金沢屋 別館



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テーマ:環境問題 - ジャンル:学問・文化・芸術

以前にも言ったような……もったいないお化けが出る

「もったいない」がブーム? 商社や自治体が取り組む、というニュースがありました。
http://www.j-cast.com/2007/06/10008267.html
以下、全文引用です。
『「もったいない」という言葉が、最近広がりを見せている。ノーベル平和賞を受賞したケニアのワンガリ・マータイさんが来日した際に、この言葉に感銘を受けたのがきっかけだ。その後、商社が「もったいないブランド」を開発したり、自治体が「もったいない家族」という省エネキャンペーンを展開するなど、言葉自体は確実に普及しつつある。

日本人の生活の魂が込められた哲学

岐阜県では「もったいない家族」を募集中だ そもそも、この「もったいない」ブームのきっかけは、当時ケニアの環境副大臣だったマータイさんが05年2月に来日した際に「もったいない」という言葉を知って感銘を受け、小泉首相(当時)との会談で「この言葉を世界に広げよう」と意気投合したことにある。同年3月の国連の会議では、この言葉を環境保護の合言葉として紹介、会場を埋めた参加者と「MOTTAINAI」の言葉を唱和した。「もったいない」は、この年の環境白書などにも盛り込まれた。

伊藤忠商事は参加企業を募り「MOTTAINAI」ブランドの商品を開発、06年4月には、リサイクルできるポリエステル製ネクタイを発売している。ネクタイとして使用できなくなったら、繊維原料として再生できる仕組みだ。

国内に、「もったいない」が急速に広がったのは、06年7月の滋賀県知事選挙だ。自民・民主・公明が推薦する現職候補の3選が確実視されていたが、「もったいない」をキャッチフレーズに新幹線の新駅やダムの建設に反対した環境学者の嘉田由紀子氏が、大方の予想に反して当選を果たしたのだ。

嘉田氏は、当選後も「もったいない」をテーマに各地で講演を行い、「もったいない精神」の普及に努めている。例えば、生まれ故郷の埼玉県本庄市で07年5月に行った講演では、

「もったいないは日本人の生活の魂が込められた生活哲学。もったいないを生かす未来づくりこそ大事」
と、この言葉に込められた精神を強調している。

岐阜県で「もったいない家族」キャンペーン
滋賀県のお隣の岐阜県では、「もったいない家族」というキャンペーンを企画している。市民からの登録を募り、「シャワーの時間を1日1分減らす」「冷暖房の温度設定を見直す」などの省エネに関する宣言をしてもらう。その家で、07年7月から12月までの半年間、光熱費を毎月チェックする「環境家計簿」をつけ、県に提出する。県では、著しい成果を上げた例や、ユニークな省エネの取り組みについては、表彰したり、ウェブサイトで広く広報したい考えだ。

県の地球環境課では、

「『もったいない』の精神を実践していただくのはもちろん、家庭から排出される二酸化炭素の量はかなりの量ですので、それを削減していきたい、という狙いもあります」
と話している。県では、1,000世帯の登録を目標にしている。

07年6月6日には、「MOTTAINAIキャンペーン」の関連グッズを購入できるオフィシャルサイトもオープンした。1クリックで植林活動に募金できる「クリック募金」という仕組みも備わっている。

これらの動きを通して、「MOTTAINAI」の精神は、日本人にとって、ますます身近なものになっていきそうだ。』

だそうです。先日ネクタイネタを扱ったつながりでもあります。
以前、もったいないお化け、というのがありましたが、そもそもお化けというのは、物を粗末に扱って、その恨みから発生するのが本来の姿らしいです。逆に、物を大事に使っていて神が宿るのは付喪神らしい。
物は大事に扱いましょう。
そして、命も大事に扱いましょう。
最近、命を物よりも粗末にしているようなニュースがよく見られるような気がしてならないのです。別に私は人格者でもなんでもありませんが、物は、粗末にするより大事にする方が好きです。人や、命も、同じです。


メイド服、巫女衣装で萌える?

テーマ:日記 - ジャンル:日記

クールビズ。クールな王子がうけるのはいいですけど。ネクタイもよろしく

クールビズという運動、また今年もやるのでしょうか。
というか、こういうのって普通に定着しなければ全く意味無いですけどね。
クールといえば、ハニカミ王子ですとかハンカチ王子ですとか、なんとか王子というのが流行っているようです。なんでも王子をつければいいというものでもないと思いますが、とにかく、やはり単純にルックスのいい人は人気があるかなと。
クールビズがキーワードのようです。

でも私は、ネクタイもけっこう好きなんですよね。たしかに、首はきつくて大変ですし、締めるのも面倒ですし。
でも、そんなに収納場所がかさばらずにあれこれ集めることができるので、着回しの中心ではありますね。スーツは、そんなに何着も用意できませんし。
クールビズを導入した年は、ネクタイ業界が悲鳴をあげたようです。
子供の持つ疑問で、「どうしてネクタイするの?」というのがあるようです。確かに言われてみれば、なぜするのか分かりません。そういうものだと思っていましたから。でもクールビズが浸透して、ネクタイ無しというのも定着して、なぜネクタイをするのか、改めて疑問ではあります。
でもやっぱり、ネクタイなんですよね。
スーツというのは、フォーマルな場に行く時のオシャレ着という意味ももちろんありますが、大抵の場合は仕事に行く時ですよね。ある意味作業服です。オシャレというよりは、動きやすさとか軽さなんかを重要視したくなるものです。あとは数が必要だから、一点豪華主義で高いのよりは、多少安くてもいいかな、なんて。
小物だって、仕事でスーツを着る時は実用性が優先です。王子のアイテムハンカチだってそう。ベルト、ネクタイピン、ワイシャツ、革靴、靴下。
そういう意味では、ネクタイというのは、実用性ではなく、純粋にオシャレで選べるのがいいのではないか、と思うわけです。


ワンランクおしゃれにクールビズ クレリックシャツ3枚セット。ジャスミン



ネクタイ。匠cleaning



メイド服、巫女衣装で萌える?

テーマ:男性ファッション全般 - ジャンル:ファッション・ブランド

ifシリーズの定番、無人島。無人島に、これだけは持って行くというメイクアイテムは?

これ、ジュゲムブログのトラックバックテーマなのですけどね。
もしも一つだけ究極のメイクアイテムを選ぶとしたら……
といっても、男性と女性では当然違うだろうけど。
かつての細眉ブームの影響で眉が麿状態なので、アイブロウペンシルが必需品、という方もいらっしゃるようです。

私は……メイクじゃないかもしれませんが、リップクリームですね。
唇が乾燥しやすく、すぐひび割れる。そうなると、気になって気になって何も手につかなくなります。
……そもそも無人島で化粧してどうするのか、という思いもありますが、はっきり言えば無駄だからこそのトラバテーマでしょうね。
無駄としりつつ、こだわるメイクは?
どんなヒドイすっぴんをさらしても、誰も見ません。

これもメイクじゃないかもしれませんが、寄せて上げるブラとかは?
外してしまえば虚偽の虚乳だとバレてしまうのですが、誰も外しませんし、外した場面を見る人もいません。
でも自分一人だけ、寄せて上げたボリュームバストを海にでも映して、一人で悦に入る。

無人島がどこにあるか次第ではありますが、南国にあるなら、日焼け止めアイテムが重要かも。
うーん、一つを選ぶのは、なかなか難しいですね。


シャネル CHANEL【スクルト スルスィル】。キャンディコムウェア



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テーマ:オシャレ - ジャンル:ファッション・ブランド

白と赤――マテリアルゴースト二次小説

【注意】冒頭にちょっとエッチっぽい描写がありますが、十八禁ではありませんのでご安心ください。



「あん、いいわ……後輩! 来て!」
「綺麗だよ、巫女娘。本物の巫女であるお前とこうなる日を……何度夢見たことか!」
 羽毛布団をはね退け、本能のままにケダモノとなった後輩は、巫女衣装を脱がされて白磁のような肌が輝くほどに眩しい巫女娘の裸身に覆い被さった。
「後輩……優しくしてね……」
 巫女娘は耳まで真っ赤になりながら、涙目で哀願する。
「分かってるよ、巫女娘。でも、僕はもう自分で自分を止められないんだ。今までは幽にジャマされて、巫女娘のことをちゃんと見てあげられなかったから……」
「いやん。やめて。もう幽さんの名前は聞きたくないわ。やっとの思いで成仏させて、こうして今、後輩と二人きりの甘い時間を過ごせるようになったんだから!」
「そう、そうだったね。……巫女娘、お前、もうこんなになっているじゃないか」
「いやん。言わないで……恥ずかしい……」
 巫女娘は薄暗い部屋の中でも分かるくらい、更に赤面した。まるで処女のように恥じらって悶える巫女娘の姿を見下ろす後輩は、嗜虐心をそそられて高ぶった。二人の心臓の鼓動は共に自己記録を大幅に更新する勢いで、いかなるハードロックのドラム音よりも激しく乱れ打っている。
「そうだ。僕の能力を使えば、こんなモノを作り出すことだってできるじゃないか。ほら」
 嬉しそうに言って後輩は、手の中に太くて長くてそそり立ったグロテスクなモノを作り出し、巫女娘の目の前に突き付けた。ソレは、まるで自ら生き物であるかのようにピクピクと蠢いていた。巫女娘が瞠目する。
「そ、それは……あ、でも、それはまた今度にして。今夜は……その……初めてだから。後輩自身のが欲しいの」
「自分から欲しいなんて言うとはね。清浄な巫女とは思えない背徳感だね。背中がゾクゾクするよ」
 後輩は霊体物質化能力で作り出したソレを消し、巫女娘を愛おしげに抱きしめる。
「後輩がイケナイんだからねっ! 後輩が私をこんな、後輩がいないと生きて行けないカラダにしちゃったから……」
「巫女娘……」
「後輩……」
「ああ……」「ああん……」
 窓から差し込む生白い月の光だけが、汗にぬめる二人の肉体を照らし出す。冴え冴えとした月光の冷たさとはうらはらに、後輩と巫女娘は熱く燃え上がり、時間が経つのも忘れてお互いを貪欲にむさぼり合った……

「……なっ……」
 赤面している。ジョニーとメアリーが登場するテレビの通販番組的な言い方をすれば、当社比で従来品より三倍濃く赤面しているように見える。
「なんなんですか! これは!!」
 巫女娘は自分の席から立ち上がり、目を三角にいからせて怒鳴った。おや? 巫女娘は自分がヒロインとして描かれているというのに何が不満なのだろう? いや、もしかして、あまりにも嬉しくて、でもその喜びを素直に表現するのが照れ臭くて、だから顔を赤くしながら怒ったようなリアクションをしているのかもしれない。ツンデレというやつだ。
「どうだ。嬉しいだろう巫女娘。後輩は入学した当初から巫女娘に対してはドキドキ感を抱いたことが無いようだから、せめて同人小説の中だけでもということで、巫女娘を相手にドキドキさせてみたのだぞ。なに、お礼はほんの平和園の焼肉をおごってくれるだけでいいから」
 焼肉だけ。かなり譲歩した提案だったが、巫女娘は思った以上に心が狭かった。
「おごりませんから! そもそも嬉しくもなんともありません。それに、同人小説ってなんなんですか! ツッコミどころがあまりに多すぎて、全部にはツッコミ切れないじゃないですか!」
「後輩は、美人で優しい先輩である私に対しては、常に淫らな劣情を抱いているからな。だから私がちょっとニヤッと微笑みかけただけで、ドキドキ感を覚えているのだぞ」
 違いますから、とかなんとか、後輩は何故か必死になって否定しようとしていたが、そんなものは軽くムシ。放課後の教室独特の喧噪に掻き消されて声が聞こえなかったふりをした。
「また後輩は、幽霊ユウに対しても、しょっちゅう抱きつかれて、そのたびにドキドキしていると聞くぞ。……残酷な事実だが、お前だけなんだよ巫女娘。後輩がドキドキのときめきを感じないのは」
 良く言えばアットホームに心を開ける相手、とも解釈できるのだろうが、わざわざそんなフォローするようなことを言う必要もないだろう。巫女娘が図に乗るだけだ。
「ウッ……ど、同人小説ってのは、一体どういうことですか? なんで真儀瑠先輩が小説なんて書いているんですか?」
「それは、先日文芸部を併合し、帰宅部が文芸部を兼ねるようになったからだ」
「え?この学校って、文芸部ってあったんですか?」
 初めて明かされる現守高校の秘密であった。
「あった。だが文芸部は、神と宇宙人と未来人と超能力者と普通の男子高校生という謎の一団に乗っ取られて有名無実化してしまっていたがね。だからウチが代わりに文芸活動をするのだ」
「んなわけないでしょう。それ○宮○ル○ですから」
 額からアニメキャラのようなひとすじの冷や汗を流す巫女娘。
「それはそうと、私の書いた小説、なかなかいい線行っているだろう。この同人小説は大量印刷して、文化祭の時には全校生徒に無料配布しよう」
 自信満々に、専制国家打倒に成功して民主国家設立を宣言する革命家のように、堂々とスタイルの良い胸を張り、偉大なる真儀瑠紗鳥は素晴らしい計画を宣った。
 しかし、天才というのは凡人には理解できないものであるのだ。後輩と巫女娘の反応は冷淡だった。苦々しい顔をずっとしている。
「そもそも、台詞まで完全に先輩の主観で書いちゃっているじゃないですか。私は蛍のことを後輩なんて呼びませんし、蛍も私のことを巫女娘なんて呼びませんよ」
 偉大なる真儀瑠紗鳥はちょっとベタベタな演技で「まさか」という表情と仕草をした。
「むっ……お前たち、ベッドの中ではお互いに下の名前で呼び合っていたというのか……ちょっと誤算だった……」
「誤算も何も……全然違いますから! ベッドの中以前に、普段から下の名前で呼び合っているじゃないですか!」
「ベッドの中以前に……ってことは、ベッドの中ではお互いの間でしか通用しないディープなニックネーム、それこそジョニー、メアリーとでも呼び合っているのか?」
 巫女娘、またも赤面。巫女娘が赤面した回数を数えたことのある人っているのだろうか?日本野鳥の会の協力を得て一度数えてみたいものだ。
「だっ、だっ、だから、全然根本的に違いますから!……蛍もユウさんも何か言ってやってよ!」
 巫女娘に発言を求められた後輩だが、俯き加減のまま言葉を発さない。まるで悔しさを噛み締めるような、美少年にはいささか似合わないいかめしい表情で、上下の唇を前歯で挟んでいる。
「ところで幽霊ユウはこの作品を読んでどのような感想を抱いたと言っている?」
 巫女娘が幽霊ユウの声を聞いて、通訳する。
「『あまりにもヒドすぎるよっ』ってわめきまくっていますよ」
「なぬっ!? ……幽霊ユウよ、具体的にどこがどう悪いと言うのだ?」
「『ケイがいないと生きて……』って、ユウさん! な、な、何を言っているのよ!」
「おい、専任通訳巫女娘。感情的にならずにちゃんと翻訳してくれ。会話が成り立たないではないか」
 あまりの興奮のためだろうか、巫女娘はまたも赤面した。一つ二つと深呼吸をして冷静さを取り戻そうとしている。
「え、ええと、ユウさんは、『ケイがいないと生きて行けないカラダなのは、鈴音さんじゃなくて私だもん』って言っています」
「なんとまあ。私の知らない間に後輩は、幽霊ユウともそんな濃厚とろとろなディープな関係にまで発展していたというのか。女と見れば見境ナシとはこのことか」
 後輩はというと、いまだ自分の席に座ったまま俯いてる。
「……いえ、ユウさんが言っているのはそういう意味ではないようですよ。ケイがいないと物質化できないから、アニメを観たくてもテレビのスイッチすら入れられないし、ゲームをやろうにもコントローラーも持てないし、イクラのザラザラした食感も味わえない……って言っています」
「そっちか。……って、ザラザラ? それはイクラではなくカズノコだったような……」
 ザラザラって……冷凍いくらじゃあるまいし……
「あっ、それ以上に腹立たしい描写があった、って怒鳴っていますよ」
「なんだ。まだあるのか」
「『私の名前は幽霊の幽ではなくって、遊ぶ兎と書いて遊兎だもんっ!』……ですって」
「そっちかよ」
 巫女娘にしても幽霊遊兎にしても、細かいことでごちゃごちゃと……最近の若者は心が狭くて困るものだ。谷崎潤一郎の『細雪』にも比肩しうるであろうこの私の名作小説に対してケチをつけようなどとはおこがましい限りだ。やはり天才は凡人には理解されぬものなのだろうか。美女先輩の繊細なハートは著しく傷ついてしまった。
 そこへ追い討ちをかけるかのように、今まで沈黙を保っていた後輩が遂に椅子を蹴飛ばすようにして立ち上がった。偉大なる美女先輩を真っ正面から睨みつけ、口を開いた。
「ユウの名前由来は遊ぶ兎じゃないからどうでもいいですけど……先輩、この小説はヒドいですよ。あんまりです」
「こっ、後輩までもが……具体的にどこがどう悪いのだ? 言ってみろ」
「僕が……僕が鈴音に襲いかかるなんて……ありえません」
「えっ?」
 巫女娘が、喜ぶべきか悲しむべきかどっちつかずな微妙な表情をしていた。いかにも曖昧な日本の私という感じだ。どっちかにしろ。
「そう。ありえません! 僕が……僕が……」
 後輩が下唇をわななかせ、握り拳をぷるぷる震わせて力説する。
「僕が、羽毛布団陛下を放り出して鈴音へ走るなんて浮気は、ぜぇっっったいにあり得ませんからっ!」
「「「そっちかよ」」」
 先輩、鈴音のツッコミがハモった。先輩には聞こえないが、ユウのツッコミもハモって三重奏になっていたに違いない。

 その後、巫女娘が「私って、蛍の中では羽毛布団よりも下の扱いなんだ……」とかなんとか呟きながらどんより落ち込みまくっていた。
「いいもん、いいもん……今度、蛍の家に押しかけて、白い羽毛布団の上にイクラの赤い汁をこぼしてやるんだから……イクラはクリーニング屋さん泣かせで、なかなか落ちないんだから……」
 巫女娘もイクラが好きなのだな、と思いながら、先輩は小説を推敲することにした。イクラの食感を「ザラザラ」と表現する前衛的斬新な可能性を目の当たりにしたことによって、目から鱗が落ちて、天才である自らにもまだ努力による向上の余地があると悟り、即座に実践に移ったのだ。
「そうだ。巫女娘の中は、カズノコならぬイクラ天井ということにしよう。これが完成すれば、無料配布でなくても、多少は料金を取っても完売できそうだぞ……」
 ニヤリ。

 神無鈴音、落ち込んでいる場合ではない。
 先輩の同人雑誌完成を阻止しなければならない。
 果たして阻止できるのか?
 それはまた、別の物語である。

メイド服、巫女衣装で萌える?

本日の華は、マギー紗鳥の華麗なマジックショウです。どうぞ!――マテリアルゴースト二次小説

 拍手に促されるようにして、舞台の袖から長身の美女が颯爽と登場した。長くつややかな黒髪を靡かせ、スタイルの良い胸を張っての自信満々の歩調。観客、特に男性からの拍手と歓声が更に大きくなる。美女は舞台中央に来て、観客席の方に向かって微笑んだ。にこっ、という感じではなくニヤリという感じではあったが。
「本日はマギー紗鳥の華麗なマジックショウにようこそ。私のマジックには種も仕掛けも無い。よくその目に焼き付けることだな」
 更にニヤリ。
「さて、見ての通り私は何も持っていないし、服の中に何かを隠しているということも無い。が、道具が何も無い状況ではさすがに面白いマジックはできないからな。助手の後輩、あ、いやワトソン式見君に道具を持ってきてもらおうか。ワトソン式見君、出てきたまえ」
 マギー紗鳥は舞台袖に向かって呼びかけたが、しばらく待っても誰も出てこない。
「おい、後輩。いや、ワトソン式見君、どうした? 早く出て来るんだ。でないと、縦ジマのハンカチを横ジマにするマジックができないじゃないか」
 それでも誰も出て来ない。
「分かった。ワトソン式見君がそういうつもりなら、こちらにも考えがある。某式見蛍君が小学生の頃にもらったというラブレターを公開するぞ」
「やめてください。やりますよ、ちゃんとやりますから……死にてぇ……」
 舞台の袖から、キャスター付きワゴンを押して一人の少年が恥ずかしげに登場した。
「先輩、僕はどうしてこんな……こんな恥ずかしい格好をしなければならないんですか?」
 ワトソン式見君は、水着一着をつけているだけで、それ以外は裸だった。靴すら履いていない裸足である。
「このマギー紗鳥のマジックには種も仕掛けも無いと証明するためだ。服の袖やジャケットのウチポケットに隠すような邪道な真似はしない。だから水着なのだ」
「そ、それにしたって、競泳用の海パンにすることないじゃないですか……北海道名物のまりもっこりじゃないんですから……死にてぇ」
 そう。ワトソン式見君がはいている水着は、水泳選手がはくような超ぴったりとしたビキニタイプだった。股間がもっこりするアレだ。一般人がはくには死ぬほど恥ずかしい。
「わがままを言うな。私だって水着なのだぞ」
「先輩はなんでワンピースタイプなんですか? 先輩だって露出度の高いビキニにすればいいじゃないですか」
 すぅっ、と目を細めるマギー紗鳥。
「なんだ後輩。じゃなかったワトソン式見君。お前は私のビキニ姿を見たかったのか? 大胆でセクシーなビキニ姿を見て悶えたかったのか?」
 ワトソン式見君はほんの少し赤面しながらも、ぶるぶると首を横に振る。
「違いますよ。ただ、マジックに種も仕掛けも無いことを証明するのなら、露出度の高いビキニの方が、物を隠す可能性の面積が小さくなるから良いのではないかなぁ、と思っただけです」
「心配するな。私が着ている水着もまたワトソン式見君と同じで競泳用だ。ぴっちりと体の線にフィットしている。更に、特殊な繊維でできていて、泳ぐ時の水の抵抗を従来製品よりも三分の一に軽減するのだ」
 水着に隠された驚異の新機能を惜しげもなく披露したのに、ワトソン式見君は、全くありがたそうな表情を浮かべなかった。
「てか水の抵抗とか関係ないじゃないですか。泳ぐわけではなくマジックやるんですから……死にてぇ」
「前置きはもう良い。さ、ワトソン式見君。最初のマジックをやるから、縦縞のハンカチをくれ」
 マギー紗鳥はワトソン式見君に手を差し出した。ワトソン式見君はワゴンの上に乗っている多数の道具の中から、ハンカチを渡した。
「……ワトソン式見君、これはどういうことだ?」
「ですから、ハンカチです」
 無地の青いタオルハンカチだった。
「これでは額の汗を拭くくらいしか使い道が無いだろう。縦ジマのハンカチを横ジマにするマジックができないじゃないか」
「えー。でもこのハンカチしかありませんよ? しょうがないじゃないですか」
「このハンカチは使えないからいらない。ポイだ」
 冷たく言い放ってマギー紗鳥は無地ハンカチをワゴンの横に設置してある「ゴミ箱」と書かれた箱の中に放り込んだ。
「さ、早く縦縞ハンカチを出してくれ、ワトソン式見君」
「え? まだそのマジックにこだわるんですか? どうせみんなどういうオチになるか分かっているんですから、もう中止して次のマジックしたらいいじゃないですか。どうせ縦縞ハンカチだって用意し忘れていて無いんですから」
「いいや。何も無い空間からハンカチを取り出すのがこのマジックの主眼なんだよ」
「……ああ、そういうことですか……」
 マギー紗鳥は助手のワトソン式見君の方へ左手を差し出し、ワトソン式見君はマギー紗鳥の手に触れるか触れないかの辺りまで、自分の右手を差し出した。
 次の瞬間。二人の手の間くらいに紅白の縞模様ハンカチが出現した。
 観客からはおおおっという歓声と拍手。だけどマギー紗鳥だけは渋い表情だった。
「ワトソン式見君。私は縦縞ハンカチを出してくれと言ったんだぞ?これは横縞ではないか」
「……い、いいじゃないですか、そんな細かいことにこだわらなくても。どうせハンカチの方向を変えれば縦縞になるんですから」
「ははあ、そういうことか。ワトソン式見君の心が邪(よこしま)だからこそ、横縞(よこしま)ハンカチが出たのか」
 言ってマギー紗鳥はニヤリ。
「違いますから。そもそもこのハンカチ、僕の霊体物質化能力で出したのではなく、先輩がマジックで出したことになっているじゃないですか」
「いずれにせよやり直しだ。今度こそ縦縞ハンカチを出してくれ。じゃなくて出そう。この横縞ハンカチは使わないから、観客にプレゼントしよう」
 マギー紗鳥は邪なハンカチをくしゃくしゃに丸め、観客の方に放り投げた。なんと不思議なことに、ハンカチは約二メートルほど飛んだ辺りで、忽然と空中から消滅した。
「じゃ、今度は縦縞ハンカチでいきましょう。先輩、手を出してください」
「……いや、やっぱりこれはもうやめて次行こう、次」
「け、結局僕は振り回されるばかりですか……死にてぇ」
 マギー紗鳥は、助手に死にたがっている暇を与えなかった。夜を切り取ったような長い黒髪を軽く払い、耳を露出させた。
「では次は、耳が大きくなるマジックをしよう」
「耳か……ギョウザとイメージが変に混合しないようにしないと……間違ってギョウザ出しちゃいそうだしな」
「……と言いたいところだが」
 マギー紗鳥、ここでまたもニヤリと笑った。この笑顔が出た時、何らかの被害が出なかったことは無いと言っても過言ではない。主に被害を被るのは後輩の死にたがり少年だが。
「毎回耳が大きくなるマジックを見てばかりじゃ、お客さんも飽きているだろう。だから今回はちょっと趣向を変えてみる。もちろん、種も仕掛けも無いぞ」
「何をするんですか?」
 自信満々にイレギュラーな展開で推し進めようとするマギー紗鳥に対して、助手は不安顔で尋ねる。
「題して『マギー紗鳥の魅惑のハンドパワー』だ。驚異のハンドパワーを発するマギー紗鳥のマジックハンドで触ったら、あら不思議! 種も仕掛けも無いのに……」
「耳じゃなければ鼻が大きくなるとでもいうんですか? ピノキオでもあるまいし……」
「マギー紗鳥の手で触ると、種も仕掛けも無いのに……」
 同じ事を二回言った。CM明けのタメのつもりなのだ。マギー紗鳥、なかなかの演出家だ。お客さんも固唾を呑む。
「……なんと後輩の股間が大きくなるのだ!」
「ちょと待てシャレになんないってソレ!!」
 赤面した助手のワトソン式見君、思わずタメ口で突っ込む。
「だって、事実として、種も仕掛けも無いだろう?」
「そりゃ、ありませんけど」
「いや……『種』はあるのかな」
 意味深長な笑みを浮かべて、長身の美女はシモなネタを平気な顔して口にした。
「そういうこと言わないでくださいよ。この人、黙ってさえいれば可憐な美女なのに……」
「しょうがないな。ワトソン式見君の股間をまりもっこり級に大きくするマジックは、今日のところは保留にしておいて、次はウーロン茶を麦茶にするマジックをしよう」
 ワトソン式見君はワゴンの上に乗っていた500ミリリットルペットボトルの烏龍茶をマギー紗鳥に手渡した。
「はい。ちゃんと用意しておきましたから、サ○トリーの烏龍茶」
「紗鳥ーの烏龍茶?」
「サ○トリーです。スポンサーですから」
「はい。これはウーロン茶だ。ラベルにもそう書いてあるからな。ちなみに未開封です。後で、これを麦茶に変えた後でキャップを開けるから、その時に音が出るから分かるはずだな」
 観客に向かってマギー紗鳥が笑顔で解説する。水着姿の美女が宣伝するのだから、これがテレビCMだったらこの烏龍茶、売れるようになっただろう。
「先程は使わずに終わってしまったマギー紗鳥のハンドパワーを使えば、たったの三秒で、この烏龍茶は麦茶に変わってしまいます」
 観客席からはお約束の失笑。
「では……一、二、三、ハイ!」
 当たり前だが、500ミリリットルペットボトルのウーロン茶の見た目に何の変化も起きない。観客たちがまたも笑いを漏らす。
「あ、これは、ラベルは『烏龍茶』と書かれたままだけど、中身は麦茶に変わっているからな。飲む時にジャマになるから、ラベルは剥がしておきましょうか」
 言ってマギー紗鳥は真珠のような爪でラベルの点線部分を摘み、ビリビリと破き剥がす。剥がしたラベルは先程の「ゴミ箱」へ投入。
「あっ、先輩、ダメじゃないですか!」
 突然、ワトソン式見君が眉毛を吊り上げて怒鳴り始めた。
「ゴミはちゃんと分別して、ペットボトルのラベルはプラスチックですからリサイクルに出さないと」
「ワトソン式見君、細かいことにこだわりすぎだぞ」
「ダメです。社会のルールはちゃんと遵守しないと」
「マジックショーの最中である今やらなくても良いだろう。後で分別すればいいだろう」
「ま、まあ、ちゃんと分別するなら、いいんですけど……」
「なんだ、ワトソン式見君。股間を大きくするマジックを中止したからって拗ねているのか?」
「力一杯、激しく違いますから……死にてえ」
「はい、では気を取り直して、次のマジック行きます。このウーロン茶……じゃなかった麦茶を、マギー紗鳥が異世界から召喚した透明人間に一気飲みさせます……いでよ! 透明人間!」
 マギー紗鳥は空中に差し出していた「麦茶」のペットボトルから、そっと手を離した。ペットボトルは万有引力の法則に従って下に落ち……ず、空中に留まっている。
おおっ、と観客のどよめき。目を凝らしても、ピアノ線の類はどこにも無い。
 空中に浮いたペットボトルは、それこそ透明人間に持って運ばれているかのように、マギー紗鳥とワトソン式見君の周りをゆっくりと一周した。二人の真ん中で止まったペットボトルは、空中に浮いたまま、キャップが捻られた。マギー紗鳥もワトソン式見君も何もしていないのに、である。
 パキッ、と音がして、未開封であったことが今、証明された。外されたキャップは例の「ゴミ箱」の中に放り入れられた。
 そしてペットボトルは上下逆さまになり、……しかし中身の「麦茶」は床に撒かれることは無く、まるで誰かが飲んでいるかのように、中の液体は虚空に消えて減って行く。
 観客からは拍手。歓声。いかに手品関係に詳しい人にも、種も仕掛けも想像がつかない高度なマジックであった。
 一気飲みはさすがに透明人間にもキツかったらしく、途中で一息ついたけど、それでも500ミリリットル全部を飲み干した。ラベルを剥がしてあるペットボトルは中身が無くなり、無色透明だ。透明人間は空になったペットボトルをバリバリと握りつぶし、「ゴミ箱」へイン。
「じゃあせっかくだから、私が異世界から召喚した透明人間にインタビューしてみよう。とはいっても、お客さんには、透明人間がどこにいるか分かり難いだろうから、透明人間に服を着せてみることにしよう。ワトソン式見君、例の服を」
「はい」
 ワトソン式見君がワゴンの上から取り出したのは、白い和式の上着と、赤い袴。いわゆる巫女服だった。マギー紗鳥が空中に上着を広げ、それに対して透明人間が自ら袖を通すような動きのような、やや不自然な動きに見えたが、透明人間は続いて袴もはいた。首から上や手足など、露出するべきはずの部分が透明で見えないことを除けば、立派な巫女さんの出来上がりだった。中の透明人間に比して巫女服はややサイズが大きいようで、ゆったりと着ているように見えた。
「えー、では。透明人間さん。あなたのお名前は?」
 マギー紗鳥は巫女服の透明人間の口がある辺りにマイクを突き付けたが、マイクは声を拾わなかった。
「遊ぶ兎と書いてユウ、だと言っていますよ」
 溜息混じりにワトソン式見君が言った。
「では、好きな食べ物は?」
「……」
「いくらだと言っています」
「好きなテレビ番組は?」
「……」
「萌えアニメだそうです」
「何かご自由に一言どうぞ」
「……」
「さっき飲んだのは、麦茶じゃなくてやっぱりウーロン茶のままでした、だそうです」
「……よ、余計なことを……では、次に見たいマギー紗鳥のマジックは?」
「……」
「黒ヒ●危機一髪、だそうです」
「はい。透明人間のユウさんでした。どうもありがとうございました」
 マギー紗鳥が巫女服の透明人間に向かって一礼すると、巫女服も前屈みになった。お辞儀したらしい。透明人間は巫女服を着たまま舞台の袖に引っ込……もうとしたが、マギー紗鳥とワトソン式見君のいる辺りから二メートルほど離れた辺りで、巫女服が中身を失ったかのように床に落ちてしまった。
「あっ!」
「……あちゃー……」
 マギー紗鳥とワトソン式見君にとっても、これはちょっと誤算だった。
「ちょっとしくじったな。透明人間ユウは巫女服を残して時間切れで異世界へ帰ってしまったようだ。ワトソン式見君、脱げ落ちた巫女服を片付けるついでに、次のマジックで使う棺桶を持って来てくれたまえ」
「はい」
 ワトソン式見君が、途中で巫女服を拾って舞台袖へ一旦退場。その間にマギー紗鳥が観客へ向かって次のマジックの説明をする。
「次が最後のマジックだ。種も仕掛けも無い棺桶に入った人間に対して、上下左右から棺桶ごと剣で滅多刺しにするという、まあ、良くあるアレだ。徹底的に刺しまくるが、それでもあら不思議、中の人間は無事ですからね。棺桶の中に入る人間は、ワトソン式見君でも良いのだが、まぁこういうのはせめて私に匹敵するくらいの美女でなければ絵にならないからな。ええと……そうだな。観客席の最前列にいる、そこのすごい綺麗なお姉さん、舞台上に上がって来てくれますか?」
 マギー紗鳥に呼ばれて台上に上がったのは、華奢でほっそりした体つきの美少女だった。現守高校の制服を着ている。白磁のような白い肌だが、今は観衆に注目されているからだろうか、かなり赤面している。マギー紗鳥は目を細めて顔をしかめながらも、美少女にマイクを向ける。
「あー、私は『私に匹敵するほどの美女がいい』と言ったのになぁ。私は、この巫女む……いや、この人の隣に坐っていた美人を指名したつもりだったんだけどなぁ」
「い、いいじゃないですか。だってこのままじゃ、私、出番無いままで終わりそうでしたから……」
「しょうがないな。……では、お名前は?」
「か、神無鈴音です」
「はい。巫女むす……神無さんは、趣味は何ですか?」
 本来舞台に上がるはずのサクラだったら、突然の質問にうろたえることもなかっただろうが、神無鈴音はイレギュラーだ。しかも、突発的な事態に弱かった。
「え、そ、そんなこと聞くんですか? え、ええと……読書です」
「どんな本を読みますか?」
「幽霊関係の資料を」
「え?」
 神無鈴音、己の失言を悟った。観客席もドン引きしている。
「あっ! いえっ、あの、レレレ恋愛小説ですっ」
「神無さんの初恋はいつでしたか?」
「えっと……それは……よ、幼稚園の時です。同じひまわりぐみのたっくんです」
「……」
「……」
 まるで、爆弾の導火線が焼けるのを待っているかのような、イヤな間だった。
「……ホントか巫女娘?」
「……ほ、ほんとですよ? 初めてキスしたのもその、たっくんでしたよ?」
「……ナイスバディのグラビアアイドルの嘘っぽいプロフィールじゃないんだぞ。嘘を言うならもっとまともな嘘を言え」
「うぅ……」
 そうこうしているうちに、ワトソン式見君が、キャスター付きワゴンに載った棺桶と二十本ほどの鋭い剣と、実物大の藁人形を用意していた。
「はい。こちらは棺桶だ。中に人が入ったら、頭と足だけは出るようになっている。もちろん種も仕掛けもないぞ。ほら」
 マギー紗鳥とワトソン式見君の二人で、棺桶を一旦展開して、観客に示す。本当に何も仕掛けは無さそうだ。
「そして、こちらの剣も本物だ。切れ味を確認するために、試しにこの藁人形を斬ってみようと思う」
 マギー紗鳥は藁人形に正対すると両手で握った剣を頭上に振りかぶり、気合いと共に袈裟切りに振り下ろした。長い黒髪が優雅に靡き、バサッという生々しい音を残して藁人形の上半身は床に滑り落ちた。そこらの百円ショップで売っているなまくら包丁あたりとは比較にならないほどの、真っ直ぐな切り口だった。見事な剣技を披露したマギー紗鳥がニヤリと壮絶に笑う。美人なだけに様になっている。観客席の男女から賞賛の溜息が洩れた。
「さて、神無嬢には棺桶の中に入ってもらおうか。ワトソン式見君は斬殺された藁人形を片付けておいてくれ」
 神無鈴音は棺桶の中に横たわった。頭と足が棺桶の外に出ることにはなっていたが、顎のすぐ下ぎりぎりと、足首の方もくるぶしの下まで棺桶の長さがあった。鈴音には、ちょっと棺桶のサイズが大きすぎるようだ。
「真儀瑠先輩」
 閉じた棺桶にがっちり鍵をかけているマギー紗鳥に対して、鈴音がどこか不安げな小声で話しかけた。
「なんだ、巫女娘」
「このマジックには、どういうトリックがあるんですか?」
「無いぞ、そんなもの」
「え?」
 巫女娘神無鈴音の視線が、一瞬虚空を泳いだ。
「だから最初から言っているだろう。マギー紗鳥のマジックには種も仕掛けもありません、と。さっきから、私のやっているマジックには、種も仕掛けも無いことは、巫女娘ならよく分かっているだろう」
「はい。何も無い場所からハンカチを出したのは蛍の物質化能力ですし、ハンカチが消えたのは物質化範囲の二メートルから外れたから。ウーロン茶は麦茶には変わっていないそのままだし。ペットボトルの空中遊泳はユウさんが持って歩いただけ。フタ開けて飲んだのはユウさん。ユウさんが巫女服を着たのも、物質化範囲だったからで、脱げ落ちてしまったのは物質化範囲から出てしまったからですよね。確かに一つも種も仕掛けもありませんでしたね。幽霊を見ることができない一般人にしてみれば種も仕掛けも思いつかないような驚異のマジックだったでしょうけど。ビデオにも映らないでしょうしね」
「この棺桶にも、さっきの剣にも種も仕掛けも無いぞ」
 種も仕掛けも無いと言い張るマジシャンは自信満々に言い切ったが、マギー紗鳥の自信に反比例して、神無鈴音の不安は底無しに広がって行った。
「ちょっと待ってくださいよ真儀瑠先輩。この棺桶、本当に退避する場所も何も無いのに、あんな剣を刺したりしたら、私、本当に死んじゃうじゃないですか。焦らさなくていいですから、どういう仕掛けがあるのか教えてくださいよ」
「だから種も仕掛けも無いんだよ。くどいな巫女娘」
 鍵をかけて棺桶を密閉し、鈴音を逃げられなくしたマギー紗鳥は、剣を一本手に取り、ニヤリと微笑んだ。
「本当はな巫女娘、お前ではなく、お前の隣に座っていた人を指名するつもりだったんだ。あの巫女服の美人、お前のお姉さんだろう?」
「そ、そうですけど……」
「この棺桶も、お前のお姉さんのサイズに合わせて作ったのに、お前が出しゃばって上がって来てしまったから予定が狂ったではないか」
「……で、姉を指名する予定だったことと、このマジックに種も仕掛けも無いことにどういう関係があるんですか?」
「お前のお姉さんほどの霊力を持っている人ならば、棺桶に閉じこめられた状態で剣に刺されても、問題なく生き残れるだろう。事実、事前の打ち合わせではお姉さんは平気だと余裕綽々の態度で言っていたぞ」
 鈴音の姉である神無深螺とマギー紗鳥の間に協定ができていたとは。もちろん鈴音はそんなことは今初めて聞いた。
「ええええっ! わ、わ私は、この状況で刺されて、生き残る方法なんてありませんよ!? どうするんですか?」
「それは私に言われてもな。当初から、棺桶の中に入った人がなんとかする予定だったのだから、私が対処法を考えているはずがあるまい。巫女娘が自力でなんとかしてくれ」
「や、や、やめてください!私、まだ死にたくありませんから!」
 赤面症の巫女娘は珍しく顔面を蒼白にしていた。往生際悪く、箱の中で暴れ出す。
「ジタバタするな巫女娘。初めてだから怖いのは分かる。体の力を抜いて、自分の肉体の中に入ってきたモノを素直に受け容れるんだ。多少は血が出るかもしれないが、痛いのは刺さった最初だけだから。私も、なるべく優しくするから」
「言い方がなんかえっちっぽいんですけど! ……てか、死にますって! 剣を構えないでください。蛍、ユウさんも、黙って見てないで真儀瑠先輩を止めてよ!」
 巫女娘は滂沱と涙を流しながら絶叫している。ワトソン式見君も、一般人には見えないが透明人間も事態を静観するばかりで何もしようとしない。剣は切れ味鋭い本物なのだから、下手にマギー紗鳥を止めに入ったりしたら、自分が怪我をしてしまうかもしれない。自分が指名された訳ではないのに出しゃばって来た鈴音を助けるために、藁人形の二の舞となるのはごめんだった。
「大丈夫だよ、鈴音。観客席には看護士の春沢さんも来てくれているみたいだし、万が一の時は治療してくれるよ」
 いつも通りのワトソン式見君の突き放したような言い方は、冷凍いくらよりも冷たかった。
 マギー紗鳥の黒い瞳に妖しい光が閃き、手にした剣は照明を照り返して無垢に輝いた。
「ちょ、ちょ、ま、マジでやめてくださいよぅ! なんで、なんで私ばっかりこんなヒドい目に! ……もう死にたいよぅ……」
 鈴音は涙を流してマジ泣きしていた。
「ちなみに、CM明けはお待ちかね大喜利のコーナーだからな。巫女娘も死んでなんかいる場合じゃないぞ。しっかり観ろよ? 万一死んじゃったとしても、スポンサーの毎○香のお線香をあげてやるから心配すんな」

 以下、描写割愛。

メイド服、巫女衣装で萌える?

二杯の豚丼――マテリアルゴースト二次小説

 いつも通り、と言ってしまえばそれまでなんだけど、それは唐突な電話だった。
『もしもし、鈴音、私。あなた、ちゃんと修練やっている? まさかまた、幽体離脱能力を悪用してノゾキとかしていないでしょうね? 神無の家名に泥を塗るような行為はやめてね。そうでなくても国の指定から外れて大変な冬の時代を迎えようとしているんだから』
 私の都合や言い分など無視して一方的に電話から声が発せられる。なんか、最後の方に聞き捨てならない台詞があったような気がしたけど。
『今日電話したのはね、あなたには現守高校をやめてこっちの地元の高校に転校するための準備をしてもらうためだから。とはいえ、いきなりそんなことを言われても事情を聞かされなければあなたも納得しないだろうから、一応、事のあらましを説明しておくわね。』
 事情を説明されたとしても納得できそうもない話だったが、私が抗議の声を発する前に、姉の説明が始まってしまった。
『神無家は国の委託する霊関係の仕事を一手に引き受けているわけだけど、それは昔は無条件に契約していたんだけど、最近は時代を反映して入札制度になっているのよね。で、このたび来年度の入札が行われて、神無家は負けてしまったのよ。つまり、来年度は神無家の収入源が断たれるわけよ。ここまで理解できた?(いまいち理解できていないが、質問すらさせてもらえずに姉の話は続いた)収入が無くなると、後は経費を削減するしか無いわけよ。つまり、実家から離れた高校に通っているあなたは、一軒家の家賃といい、お手伝いさんの人件費といい、生活費の仕送りといい、学費といい、削除対象となったのよ。国との契約が正式に切れるのは来年度からではあるけど、その時に備えて今すぐに経費削減は始めなければならない。だからあなたは、今の高校をやめて、地元に帰って来なさい。地元の高校に通うのなら、神無家からも学費は出します。ただし、あなたも学費の足しにアルバイトでもしてもらうことになりますけどね。最近、この辺にもコスプレ喫茶なんてのができて、時給も高いらしいから、メイドなり巫女なりのコスプレをして働きなさい(ちょっと今スゴイ穏やかではいられないことを言われた。能力的には大したことないとはいえ、本物の巫女である私が巫女のコスプレをするなんて……死にてぇ、だわよ)。というわけで、そっちの高校に通うのは今月いっぱいってことで。今住んでいる家も引き払うことになるから、今のうちから片づけを始めておきなさい。中退や転入の手続きなどはこっちでやっておいてあげるから。分かったわね? それじゃあ、電話切るわよ……』
「ちょっ! ちょっと待って!!」
 私は焦った。これが焦らずにいられるだろうか。
『……何か質問でもあるのかしら?』
「そ……その……納得できない部分は多々あるんだけど、どうしても現守高校をやめなくちゃならないの?」
『学費やら生活費やら、諸々の経費をあなたが一人ですべて支払えるというのならば、別にやめなくてもいいわよ。でも、そこまでしてしがみつきたい学校じゃないでしょ。偏差値だってそれなりでしかないようだし。転入先は、名門大学の付属高校だから。エスカレーター方式で楽に大学まで行けるわよ。噂では、合コンもひっぱりだこというくらいモテモテらしいわよ』
 転入先の話を聞いて、ちょっといいかな、と思ってしまった。いけない、いけない。合コンとは言うけど、私なんてどうせ人数合わせにしかならないだろう。例えば三対三だとしたら、一人は真儀瑠先輩のような人で、一人はユウさんのような人で、モテるのはその二人ばかり、なんてことになるのが目に見えるようだ。私は「地雷」扱いがいいところだろう。そうでなければ「巫女」であることに奇異の目を向けられてイタい思いをするかのどちらかだ。
「わ、私……できれば現守高校をやめたくないんだけど……」
『何故なの? 明確な理由はあるの? 言ってみなさい。聞くだけは聞いてあげるから。あなたの希望通りに行くという保証はできないけれども』
 蛍と離ればなれになりたくないから。
 そんなことをバカ正直に言ったりしたら、瞬殺で却下間違いなしだろう。
「ほ……ほら、現守高校には、霊体物質化能力を持つ式見蛍がいるじゃない。彼の動向を監視するためには、私が現守高校に通うのが、一番自然だし、力のある能力者の手を患わせることもないし……」
『そうは言うけど鈴音、あなた、今の時点で式見蛍をどう監視してどう成果を挙げているわけ? 監視とノゾキを混同しているんじゃないでしょうね?』
「ノ、ノゾキなんてしてないもん……最近は……」
 言ってから、最後に付け加えた一言は蛇足だったと気付いた。これじゃあまるで昔はノゾキをしていたみたいに勘違いされてしまうじゃないのよ。
『鈴音、あのね、神無家もバカじゃないのよ? あなたが現守高校をやめた後の式見蛍をそのまま野放しにするとでも思っていたの? ちゃんと対策を考えていたのよ?』
「え? どんな? 別の人員を派遣して様子を見張るの?」
 姉は電話の向こうで呆れたような溜息をついた。私に聞こえるようにしているのだ。
『あなたね。何をそんな非論理的なことを言っているのよ。人を派遣したらまた無駄に経費がかさむでしょう。監視対象である式見蛍を、こちらに来させるのよ。更に突っ込んで言えば、彼を神無家の中に取り込む』
 姉は日本語でしゃべっているはずなのに、ヘタな英語なんかよりも遥かに理解しがたい言葉だった。意味がわからないよぅ。
『つまり、式見蛍を神無本家へ連れて来て保護するのです。そして、婿養子として神無家の誰かと結婚させる。そうすれば、式見蛍も神無家の一員になるし、ずっと傍に置いておいて監視し続けることができるでしょう?』
「はぁ!?」
 もし姉が「世界征服をする」と言い出したとしても、私はさほど驚かなかっただろう。でも今の発言はぶっ飛びすぎていた。蛍を神無家の婿養子にする? ……それってつまり、私と蛍が、……け、……けっ、こ……結婚……す、る、って、……
 まるで御神酒を飲んだかのように、顔がぽっぽと火照った。
『まぁ、神無家の誰かとは言っても、実際には私ということになるでしょうが』
 熱かった顔が、北極海の氷山を浴びせられたかのように冷えた。今、デイジーカッターも目じゃないスゴイ爆弾発言がなされた。
「なんで蛍の結婚相手が姉さんなの? ま、まさか、姉さん、蛍のことが、す、好きだなんて……」
『好き嫌いの感情というよりは、式見蛍の物質化能力と、私の霊能力。この二人の間には、とんでもない素晴らしい能力を持った子供が生まれるのではないかと期待できませんか』
 この二人の間、って、まるで他人事のように言う姉。でも、特異な能力と強大な能力の父母を持つ子供が、スゴイことになりそうなのは私にも理解はできる。でも……式見蛍が婿養子になって神無蛍になって、姉との間に子供をもうけて……そんなのダメ! ダメ! 認められない。ダメに決まっているんだから!
「ちょっと待ってよ。そもそも、蛍の意思はどうするの? 神無家の婿養子に入りたいなんて思わないかもしれないじゃない。彼には結婚相手を選ぶ権利は無いの?」
『ありません』
 間髪を入れずにたった一言あっさりだった。哀れ式見蛍。いや神無蛍。日本国憲法で保障されているはずの基本的人権が蹂躙された瞬間だった。
『先程も言ったけど、式見蛍は野放しにはできません。彼が十八歳になって法律的に結婚できる年齢になった時点で、正式に神無家に婿入りしてもらいます。彼の自由意思などというものは一切認めません。彼を婿入りさせるためには、神無家はあらゆる障害と隘路を全力で排除します。神無家の持てる財力、政治力、人脈、賄賂、暴力、場合によっては式見蛍の家族を人質に取るとか、最終的には式見蛍自身を精神操作するなどの方法も含めて、目的のためには手段を選ばずに、必ず実現します』
 ……なんていうか、神無家って、今の姉の台詞だけを聞いていると、歴史の闇に巣くったものすごい極悪非道な一家という感じがしないだろうか? 姉が今言ったことに比べたら、ノゾキなんてとてもカワイイお茶目なイタズラでしかないと思えるのだけど。
『……それとも鈴音、あなた、今、式見蛍と恋人として付き合っているのですか?』
 単刀直入質問だった。あまりに咄嗟のことに、私はどう反応して良いか判断できなかった。我ながら臨機応変というのが苦手だ。
「えっ、……いや、あの……その……ああうう。……そ、そんな、……恋人、だなんて……そんな……」
『もしあなたが式見蛍と恋人として付き合っているのなら、現守高校をやめないで、そのまま残ってもいいですよ』
「え?」
 ホタルの光ならぬ式見蛍の光が、希望の光が見えた、ような気がした。
『式見蛍が十八歳を迎えるまで、まだ時間があります。その間、何らかの形で式見蛍を見張らなければならないのは確かです。ただ単に彼の物質化能力を監視するのではなく、彼と神無家以外の女性がくっつくのを阻止しなければなりません。もちろん、いざという場合には相手の女性を亡き者にするなどの実力行使も躊躇いませんが、できれば穏便に済ませたいですからね。そのためには、式見蛍と神無家の女が恋人として付き合っている状態が、彼の十八歳の誕生日まで続けば良いのです。式見蛍が十八歳になったら、神無家に婿入りし、神無家の誰かと結婚する。まぁ、神無家内の誰を選ぶかについてくらいならば、彼に選択権を与えても問題無いでしょう』
「……ちょっと、姉さん。いくらなんでも言っていることが無茶苦茶すぎない。本当に姉さんなの? まさか誰かに精神操作とかされていないわよね?」
『私は誰にも操られてなんぞいないし、さほど無理難題をふっかけているとも思えませんけどね。……でもあなたの今の口ぶりからすると、式見蛍と恋人として付き合っているわけではなさそうですね。単なるお友達でしかないのですね。ならば決まりです。鈴音は今の高校をやめてこっちに戻って来る。式見蛍は神無本家に連れてきて保護し、十八歳になったら然るべき相手と結婚してもらう。正式に結婚するまでの間は……そうですね、私の許嫁ということにでもしておきましょう』
 話しを聞いていると、いずれにしても蛍と離ればなれになることはないようだ。でも、現守高校をやめて実家に戻ることになるのはやはり最悪だ。蛍も連れてこられるようだけど、姉の許嫁にされてしまう。
「ま、待って、待って! 今まで、黙っていたけど、……じ、実は、私と、し、式見蛍とは、恋人として付き合っているのよ。もう、バリバリ相思相愛なのよ。しょ、将来を誓い合ったりなんかしちゃったりして……えへへ……だ、だから、私も蛍もこれからも現守高校に残ってもいいでしょ?」
『……』
 姉にしては珍しく、沈黙の時間が長かった。
『鈴音、それは本当のことなの? その場しのぎのために口からの出任せを言っているんじゃないでしょうね?』
「ま、まさかそんなわけないでしょう? ……いやねぇ、姉さんったら……おほほほ……」
 さ、最後の笑いがわざとらしかったかも……痛くて後悔した。
『……分かったわ。可愛い妹の言うことですもの、信じましょう。でも、来週、私がそちらへ行きますから、その時にこの目で二人が本当に付き合っているのかどうか確かめさせてもらいます』
「えっ? マジで?」
 額から変な脂汗が流れ始めた。今の私と蛍の関係を見られたら、付き合ってなどいないことは一目瞭然でバレてしまう。
『もしあなたたちが本当に付き合っているのならば、私も女ですから、ジャマするような無粋な真似はしません。二人とも現守高校に残ることを認めましょう。ただし、どう拡大解釈しても付き合ってはいないと判断される場合は、もはや言い訳は聞きませんよ。底引き網で引きずってでも、あなたと式見蛍を連れて神無本家へ戻りますからね。いいわね、鈴音。じゃあ、来週、そちらに行くから』
 かかってきた時同様に、あまりにも唐突に電話は切れた。
 私の頭の中は真っ白になった。

 かくて私は、一週間以内に蛍を振り向かせなければならなくなった。
 出会って一年と少々。その間、蛍は私の気持ちに全く気付いてくれなかったというのに、たった一週間でそんな劇的な進展が可能かどうか、自分でも無理っぽく思う。
 こうなったら精神操作でもして……なんて不埒なことも考えたけど、私の力では精神操作なんて難しいことはできません。
 とにかく考えた。策を練った。生まれてから今日まで、これほど脳細胞を酷使したことなんて無いんじゃないかというくらい、頭が焦げて茶色い煙が出てきそうなほどに熟慮した。必要な物資を買いに走った。明日から戦争だ。相手は下手をしたらいかなる悪霊よりも強敵かもしれない。
 ユウさんや真儀瑠先輩も、黙ってはいないだろうな……でも、他人の動向を気にしている場合ではない。一週間で結果を出さなければ、私はこの学校を中退させられ、蛍は姉と許嫁になってしまう。
 断固阻止、である。

「おはよう、鈴音」
「おはよう、鈴音さん」
「おっ、おはよう……」
 無理に笑顔を浮かべようとしたが、ぎこちなくて十中八九失敗していたはずだ。緊張のあまり赤面しているのが自分でも分かる。
「どうした鈴音。顔が赤いぞ。熱でもあるんじゃないのか?」
「だ、大丈夫だから、なんでもないから……そ、それより蛍、……な、なんか、今日の私、いつもとちょっと違うと思わない?」
「いや、だから顔が妙に赤いよ。風邪でもひいたか?」
「もっと違うところに注目してほしいんだけど……」
 うう、自分の赤面症がなんとも憎らしい。それに、蛍も蛍よ。女の子のちょっとした変化を鋭く察知するくらいの甲斐性が無いとモテないわよ。……いや、蛍が今以上にモテるようになってもらっても困るんだけどね。
「あっ、確かになんか、鈴音さんいつもとちょっと違うよねー。うーん、なんというか……そう、いつもより色っぽいというか、女らしいというか……」
 ユウさんが先に勘づいたようだ。こういうのって、女同士の方が早く気付くものなのだろうか?女の人に気付いてもらうために無理しているのではなく、男の人、もっと限定して言えば蛍に気付いてもらうために高いお金も出したというのに……
「そうか?顔が赤くなっているから、ユウには色っぽく見えるのか。僕には、単に色が違うだけにしか見えないけどなぁ。別に色っぽいとも女らしいとも……鈴音が赤面するのはしょっちゅうだから、今更ねぇ」
 蛍、赤面から離れた部分で思考して欲しいよ。……それになんか今、さりげなく失礼なこと言っていなかった?
「あっ、私分かったよ! なんで今日の鈴音さんがいつもと違って女らしく見えるのか。……私も形状変化でやってみようかな?」
「え? ユウ、分かったの? 教えてよ」
「ダメだよ。教えられないよ。自分で気付くならいいけど。教えちゃったりしたら鈴音さんに失礼だもん」
 女の子同士だけあって、ユウさんは私の変化にも気付いてくれたし、私の気持ちを尊重してくれたようだ。
「いや、自力で気付けって言われても……鈴音が赤面している理由なんて分からないよ。……もしかして朝っぱらから焼酎一気飲みしてきた、とかか? 違うんだろ? ユウ、教えてくれよ」
「ダメ! ……私、校内回って噂話集めてくるねー」
「あっ……逃げられた……鈴音、なにユウと二人で分かり合っちゃって僕を仲間外れにしているんだよ。いい加減何がどうなっているのか教えてくれよ」
「自分で気付いてよね」
 言って私は不機嫌そうに唇をとがらせた。唇をとがらせた。
「なにを拗ねているんだよ。いつものことだけど、相変わらずわけの分からない部分で不機嫌になる奴だなぁ」
 段々、本当に不機嫌になってきた。どうして蛍って、ここまで朴念仁なのだろう。
「まあいいや。こいつが朝に不機嫌なのはいつものことだし」
 いや。今日は朝だけでは済まないよ。気付いてくれない限り、一日中ずっと不機嫌な気分で過ごさなければならないだろうなぁ。

「後輩! 帰宅するぞ……って、うわ! なんだ巫女娘! ルージュなんか塗ったくって急に色気付きやがって、気持ち悪いぞ」
 結局、蛍は気付いてくれないまま放課後となり、教室に押しかけて来た真儀瑠先輩が一瞬にして私の変化に気付き、開口一番に答えをバラしてくれやがりました。……っていうか、なにげに失礼なことを言っていなかっただろうか?
「ルージュ? 鈴音、学校に化粧して来たの?」
「そ、そうよ……」
 答えが判明してしまうと、なんか恥ずかしくて顔から火が出そうだ。蛍がマジマジと私の口許を見ている。これも恥ずかしい。
「いつもと大した違わないじゃん。全然気付かなかったよ。気付かなくて当然って感じだな。……さっ、先輩、帰りましょうか」
 蛍はさっさと立ち上がり、カバンを持って、真儀瑠先輩と並んで教室を出て行った。
「えっ? それだけ?」
 せめて「きれいだよ」とか、お世辞でもそれくらい言ってくれてもいいじゃない! このルージュ、高かったのをちょっと無理して買ったんだから。
「でも鈴音さん、全く気付かなかったのって、このクラスで蛍だけだったね」
 無邪気な笑顔を浮かべたユウさんが穏やかな口調で語りかけてくる。蛍がもう行ってしまったから、今はユウさんは物質化しておらず、ふわふわと宙を漂っている。
「女子はもちろんみんな気付いていたし。男子も蛍以外は勘づいていたよね。みんなチラチラ鈴音さんの方を見ていたもん」
「えっ? 私、クラスの男子に注目されていたの?」
「なに? 鈴音さん、自分が男子に注目されていたのを、気付いていなかったの?」
 気付いていなかった。全く盲点だった。蛍が気付いてくれるかどうか、そればかり心配していて、周りが見えなくなっていたようだ。
 ふと周囲に注意を払うと、まだ教室に残っている生徒の全てが、私の方を注目していた。も、もしかして今日一日、私ってこんな感じでみんなに見つめられていたんだろうか……そう思うと今更ながらだけど、すごい恥ずかしい。
 で、でも、みんなの視線は、なんか変だ。躊躇いがち、というか、まるでイタイものを見ているかのような生温かさだ。見てはいけないようなものを見ているような……「ママー、あのお姉ちゃん、唇が変で気持ち悪いよー」「見てはいけませんっ!」みたいな感じかも……せっかく高いルージュだったのに、そんなに似合っていなかっただろうか……
「鈴音さん、みんなには私の姿は見えていないはずだから、鈴音さんは虚空に向かって一人で叫んでいるように見えているんだよ」
 そうだった。恥ずかしい。穴があったら私を埋めてほしいです。
 ……
 って、タイムリミットはたったの一週間でしかないのに、口紅に頼って本日一日を無駄にしてしまったようだ。蛍の心は一ミリたりとも私には傾かなかったに違いない。……それどころか、蛍は現在、真儀瑠先輩と二人っきりで帰宅している。……まあ蛍と先輩は長い付き合いのようだから、今更劇的な進展なんてことは考えにくいだろうけど、でももし何か間違いが起こって、二人の仲が親密になっちゃったりしたらどうしよう。あの先輩、性格はアレだけど、顔も綺麗だしスタイルも抜群だからな……文字通りホタルが甘い水に誘われるように、色香に迷って蛍がクラクラと先輩に流れちゃわないという保証はどこにも無いし……

「おはよう、鈴音」
「おはよう、鈴音さん」
「おっ、おはよう……」
 無理に笑顔を浮かべようとしたが、ぎこちなくて十中八九失敗していたはずだ。緊張のあまり赤面しているのが自分でも分かる。
「どうした鈴音。顔が赤いぞ。熱でもあるんじゃないのか?」
「だ、大丈夫だから、なんでもないから……そ、それより蛍、……な、なんか、今日の私、いつもとちょっと違うと思わない?」
「いや、だから顔が妙に赤いよ。風邪でもひいたか?」
「もっと違うところに注目してほしいんだけど……」
 うう、自分の赤面症がなんとも憎らしい。それに、蛍も蛍よ。女の子のちょっとした変化を鋭く察知するくらいの甲斐性が無いとモテないわよ。……いや、蛍が今以上にモテるようになってもらっても困るんだけどね。
 ……って、ここまで、なにげに昨日と全く同じ展開だったりするし。昨日のルージュは、相手が超弩級に男女関係の機微に鈍い蛍だということからすると明らかに作戦ミスだった。でも今日は違うもんね。お金をかけず、しかも誰が見ても一目瞭然で違いが分かる。……分かるはず。……分かってくれるといいなぁ。……いやでももしかしたら、あの蛍のことだから、まさかなんてことが……
「確かに今日の鈴音さんはいつもと明らかに違うよねー。これで分からなかったら蛍って男の子失格だよねー」
「分かるよ。口紅塗ってきたんだろ?」
「一日遅いわよ!それに間違っているし」
 ちなみに今日は塗っていない。素の唇である。化粧なんかせずに素のままでも、ルージュをひいたのと同じくらい、私の唇は艶やかで瑞々しいから、蛍はそう言ってくれたのかな……え、それって……
「どうした鈴音。また顔が赤くなったぞ。そうかやっぱり口紅だったか」
「違うわよ! もうルージュはこりごりよ。せっかく高いお金出して買ったのがもったいないから、真儀瑠先輩にでも高く売りつけようかな……」
「先輩相手にそういう商売気を出すと、必ず後で手痛いしっぺ返しくらうからやめておいた方がいいぞ」
「……そ、それもそうよね」
「そもそも先輩、化粧なんかしないし。素で美人だからそういうことには結構無頓着なんだ」
「へ、……へえ。蛍、真儀瑠先輩のこと、よく知っているんだね?」
 なんか、悔しかった。じゃあ、蛍は私のことはどれくらい知ってくれているんだろう? そもそも、今日の変化にはまだ気付いていないんじゃないの?
「分かったそ。三日ぶりに便秘が治ってすっきりしたんだろう?」
「……」
 私は躊躇わずに蛍の首を絞めにかかった。丁度いいんじゃないのかな。蛍ってほら、死にたがりだし。苦しいのや痛いのは嫌だと常々言っていたけど、そういう飽食時代的な贅沢は控えて、日本人ならばすべからく清貧であるべきなのよ。それなのに蛍は激しく抵抗したので、私もポニーテールを激しく振り乱しながら応戦した。ユウさんは無責任にも「やれ! やれ! もっとやれー!」と煽り立てていたが、その声は他のクラスメイトには聞こえない。クラスメイト達はというと、私と蛍の喧嘩がいつもよりも尋常じゃないと察知したのだろう、私と蛍を数人がかりで羽交い締めにして、力ずくで引き離した。うん、私と蛍の関係も、まるで外部から何かの力が加わっているかのようで、なかなかくっつかないよね。
 ……はあ、朝っぱらから、なんかもう激しく疲れたよぅ。肉体的にも精神的にも。
で、結局。この日一日、私はまた、クラスメイトたちからちらちらと見られるという恥ずかしさを味わうことになった。今日の場合、私の見た目の変化どうこうというよりも、朝に大暴れした関係上、また暴れ出さないかどうか、監視されていたという要素の方が強いようだった。
 私って、猛獣扱い?
 で、更に結局。放課後になって、真儀瑠先輩が堂々と他学年の教室であるにもかかわらず踏み込んで来て……
「後輩! 帰宅するぞ……巫女娘、お前、項見せる髪型をしたって、巫女服を着なかったら所詮は萌えないぞ?」
「余計なお世話です」
 髪型を変えてポニーテールにするという作戦も無惨に失敗した。やはりお金をかけずにお手軽に済まそうとしたのが間違っていたのかな?

「おはよう、鈴音」
「おはよう、鈴音さん」
「おっ、おはよう……」
 無理に笑顔を浮かべようとしたが、ぎこちなくて十中八九失敗していたはずだ。緊張のあまり赤面しているのが自分でも分かる。
「どうした鈴音。顔が赤いぞ。熱でもあるんじゃないのか?」
「だ、大丈夫だから、なんでもないから……そ、それより蛍、……な、なんか、今日の私、いつもとちょっと違うと思わない?」
「いや、だから顔が妙に赤いよ。風邪でもひいたか?」
「もっと違うところに注目してほしいんだけど……」
 うう、自分の赤面症がなんとも憎らしい。それに、蛍も蛍よ。女の子のちょっとした変化を鋭く察知するくらいの甲斐性が無いとモテないわよ。……いや、蛍が今以上にモテるようになってもらっても困るんだけどね。
 ……って、ここまで、なにげにここ数日と全く同じ展開だったりするし。私や蛍の日常って、ほとんど同じことの繰り返しなのだろうか。でも、その単調でありながら、かけがえのない楽しい日常が奪われようとしているのだ。現守高校に残れるかどうか。蛍と付き合うことになるのはとても恥ずかしいが、なりふりを構っている場合ではないのだ。なにせ、あの姉が相手なのだから。
「うーん。ちょっと私にはいつもの鈴音さんとの違いは分からないなぁ」
「ユウでも分からないんじゃ、僕に分かるはずないよ。先輩を呼んで来ようか? 先輩ならきっと一瞬で見抜い……」
「ダメ! 絶対ダメ! それだけはダメ! 真儀瑠先輩じゃなくて蛍に気付いてほしいのよ」
 ……あ、今、私、なにげに大胆なことを言ってしまった。これって準告白みたいなものじゃないのよ。ユウさんに口を挟まれるかと思ったが、本日は早々に校内へ繰り出していた。毎日毎日噂話の収拾に熱心なことだ。鉄板の上で焼かれる鯛焼きのように、いい加減イヤになっちゃったりしないのだろうか。
「ちぇっ、僕が鈍いと思って、口紅塗ったり髪型変えたりして毎日僕をからかって遊ぶつもりなんだな。鈴音お前いつからそんなイヤナヤツになったんだよ」
 ……なにが準告白だったのだろう。蛍の鈍さでは、バリバリ直球勝負の告白でも気付かない、なんてことが有り得るかもしれないよ。
 私は肩にかかるくらいの後ろ髪を軽く梳きながら、それでも笑顔を作る。今日の変化はポニーテールと違って、お金がかかっている。ポニーテールの時は安いゴムを買っただけだからなぁ。
「ほら。いつもと全然違うじゃない。いつもより当社比で三割増しで美人度がアップしていると思わない?」
「鈴音が美人になっているとは思わないなぁ」
 ……式見君、今、何と言いました?
「も、もう、蛍ったら、冗談きついんだから……」
 私は眉毛にかかるくらいの黒髪を軽く指でほぐしながら言う。実のところ、私の姉は日本人ではあるけど髪の毛の色が黒ではない。そこへくると妹の私は平凡な日本人的黒髪である。平凡とは言ったけど、悪い意味ばかりではない。私の場合、肌がかなり白いので、対比として髪の黒が映えるという面がある。はぁ、ホントこれでもうちょっと顔の造型が美人で背が高くて胸が大きくてスタイルが良くて頭が良くて霊能力があれば良かったのに。って私、多くを望みすぎなのかしら。
「やっぱり分からないよ」
「ちゃんと私を見てよ」
 蛍には最初から、答えを出そうという気力が薄い気がする。死にたがりにとっては、別に恋人でも何でもない単なるクラスメイトの些細な変化などどうでもよいことなのだろう。……って、今の台詞も、なにげに準告白っぽい、ドラマとかで出てきそうな台詞だった。恥ずかしいけど、まあどうせ蛍は気付くまい。もうそこに関しては諦めの境地だよ。
「鈴音、今の台詞、ドラマとかで出てくる告白シーンみたいだったな」
 ドキッ! まさか勘づくとは思わなかったよぅ。サプライズ攻撃だ。ああ、赤面するな、私。でも耳が熱い。
「鈴音、お前、巫女より女優の方が向いているんじゃないのか。もうちょっと顔の造型が美人で背が高くて胸が大きくてスタイルが良くて台詞を完全に覚えられるくらい頭が良ければ」
「それだけハードル高かったらその時点で無理でしょ。それより、ユウさんが帰ってくる前に答えてよ。私がいつもと違うの、分かる?」
 もう完全にいつも以上に不機嫌になってしまった私である。あ、いつもいつも不機嫌でいる、っていう意味じゃないからね。
「降参。分かりません。さ、将来に備えて勉強しなくちゃ。最初は英語だし」
「ちょ、蛍……」
 死にたがりが将来に備えて勉強してどうするのよ? いや、別に蛍の死にたがりを肯定しているのではないんだけど、勉強するより死にたがりを克服するのが順番として先なんじゃないの?
 かくて、今朝も収穫は無いままに授業が始まった。
 蛍やユウさんだけでなく、クラスメイトの誰もが私の変化に気付かぬまま、時間はサラッと流れて放課後となった。恐怖の大王は1999年に出現すると予言されていたようだけど、恐怖の女王は毎日放課後に出現する。
「後輩! 帰宅するぞ……巫女娘、お前、また色気付いているのか? お前は発情した猫か何かか?」
「っ、な、なにげに失礼なことを言われ続けているのはスルーしますけど、今日の私の変化が先輩に分かるんですか? 今日のは先輩でも難しいと思うんですけど」
「いや、お前を見て一瞬で分かったぞ。そんなもの連続殺人事件を解決するのに比べたらちょろいものだ」
 先輩はスタイルの良い胸を張った。ああ、この人ならば、女優になる条件を全て満たしているかもしれない。ミョーな推理力があるから頭も良さそうだし。こんな何でも持っている人が、蛍と中学時代からの知り合いで、私やユウさんでは入り込めないような絆でがっちり結ばれているなんて、世の中は不公平だ。
「よし。今から種明かしをしてやろう。おい、後輩」
「はい」
「『アレ』を出せ」
 言って真儀瑠先輩は蛍に向かって手を差し出した。私は、ちょっと呆れた。
「『アレ』って何ですか、『アレ』って? 事前に打ち合わせしてあったわけじゃあるまいし、『アレ』なんていう漠然とした指示で意思が通じるわけないじゃないですか。先輩は霊能力無いから、テレパシーとかもあり得ないし」
 私の冷静なツッコミを無視して、蛍は自分のカバンの中をガサゴソ探している。自分が何を探しているのか分かっているの? 探し物は何ですか? カバンの中も机の中も探したって、真儀瑠先輩の言う『アレ』が分からなければ永遠に見つかりっこないと思うのだけど。
「ありました」
 蛍が取り出したのは油性の黒マジックペンだった。
「よし。ちょっと貸してもらうぞ」
 真儀瑠先輩は満足げに頷いて、蛍からマジックを受け取った。えっ! もしかして、それで正解だったの? 『アレ』って、マジックペンのことだったの? 『アレ』なんて漠然とした指示で通じてしまうなんて、蛍と先輩の関係って、強い絆どころではなく以心伝心の境地にまで至っちゃっているわよ! ユウさんすらも目を見開いて絶句している。
 先輩は驚いている私(とユウさん)には構わず、マジックペンのキャップを外した。そして……
 あろうことか、私の髪の毛を掴み、マジックペンで色を塗ろうとし始めた。
「や、やめてください。髪にマジックなんか塗られたら、洗ってもなかなか落ちなくなっちゃうじゃないですか!」
「心配無用だ、巫女娘。黒い髪に黒いマジックで色を塗ったって、どうせ黒なんだから誰も違いには気付かないぞ。それとも何か? 額に『肉』とでも書かれた方がいいか?」
「『肉』は勘弁です。てか、髪を汚されるのもイヤです。激しく拒否します! 蛍もユウさんも黙ってないで助けてよ!」
「巫女娘、そんなに嫌がることないだろう。今日のお前の髪、地毛の色ではないだろう?」
 あ、先輩にはバレていた。
 先輩はマジックを掲げたまま、ニヤリと笑った。そのマジック、早く片付けてほしいんですけど。
「そう。巫女娘は今日、髪を染めてきた。とはいえ、金髪にするのは大胆過ぎるし、校則のユルい現守高校といえどもさすがに先生に何か言われるかもしれない。そもそも金髪まですると自分にはイマイチ似合いそうにない。そう考えた巫女娘は、黒髪をわざわざ黒く染めたのだ」
 ああ、もう完全に先輩の推理は当たっている。これを推理と言っていいのかどうかは別として。
「そんなの分かりっこないよぅ」
 ユウさんが頬をふくらます。
「黒髪を黒く染めても意味ないじゃん。さ、先輩、帰りましょう」
 今日も惨敗だ。

「おはよう、鈴音」
「おはよう、鈴音さん」
「おっ、おはよう……」
 無理に笑顔を浮かべようとしたが、ぎこちなくて十中八九失敗していたはずだ。緊張のあまり赤面しているのが自分でも分かる。
「どうした鈴音。顔が赤いぞ。熱でもあるんじゃないのか?」
「だ、大丈夫だから、なんでもないから……そ、それより蛍、……な、なんか、今日の私、いつもとちょっと違うと思わない?」
「いや、だから顔が妙に赤いよ。風邪でもひいたか?」
「もっと違うところに注目してほしいんだけど……」
 うう、自分の赤面症がなんとも憎らしい。それに、蛍も蛍よ。女の子のちょっとした変化を鋭く察知するくらいの甲斐性が無いとモテないわよ。……いや、蛍が今以上にモテるようになってもらっても困るんだけどね。
 ……って、ここまで、なにげにここ数日と全く同じ展開だったりするし。でも、今日の私は昨日までの野暮な私とは違う。そう、なんというか、ア、アダルトな魅力に溢れたオトナの女の色香が漂っている、はず。
「ええー? 今日の鈴音さんは……いつもとの違いは分からないなぁ。ルージュでもないし、髪型でもないし……つけ爪もピアスもしていないよね?」
「僕は分かったぞ」
「え?」「え? ケイ、マジで?」
 ユウさんでさえ分からないというのに、蛍に何が起きたというのか。……でも正直言って、今日の変化はいざ分かられてしまうと、とてつもなく恥ずかしい。も、もしかして、はしたない女だと思われたりはしないだろうか?
「ネット通販で買ったコスプレ用巫女服が届いたんだろう。昨日の夜、散々それを着て、独りで悦に入っていたんだろう」
「……」
 私は肯定も否定もしなかった。もちろん、蛍の答えはハズレである。でも大ハズレというのでもなく、何故か変なところで鋭いところを突いてくる蛍だけあって、微妙に当たってはいるのだ。もちろん、私は巫女服なんか着ない。絶対に着ない。ネット通販で買うわけがない。しかもコスプレの巫女服なんて。
「ま、僕も一回くらいは鈴音の巫女服姿を見てみたいかな。今度、学校に着て来いよ。全校の注目の的になること間違いなしだぞ」
 恥さらし間違いなしだろう。もちろん、着て来ません。
 本日はさすがに恥ずかしさが昂じて、ほとんど喋ることすらできなかった。だから、クラスメイトから色々な意味で注目されることもなかった。今日の変化は、一見しただけでは分からないだろう。ユウさんでも分からなかった。クラスメイトは、男子も女子も全く気付かなかったようだ。それはそれでいい。私は、蛍のためだけに、こんな恥ずかしい思いをしているのだ。肝心の蛍は全然気付いてはくれないけれども。
でも、その時私はすっかり失念していた。妙に鋭い推理力を持つ、異常人物の存在を。
「後輩! 帰宅するぞ……って、うわ! なんだ巫女娘! また色気付きやがって、気持ち悪いぞ!」
 その、いちいち気持ち悪いとか言うのやめてほしいんですけど。私が色気づいたらダメなんですか? 恋する乙女に対して気持ち悪いなんて……でも、今日のはさすがに自分でも背伸びし過ぎて地に足が着かなくなっている気がする。気持ち悪いと言われてもある意味文句言えないかも……
「へ? 先輩、鈴音がまた色気付いたって、どこがいつもと違うんですか? 口紅じゃないですよね?」
 後輩蛍の質問に、真儀瑠先輩は笑った。いつものニヤリという笑みだ。マズイ!これが出た時には非常に危険だ。早々に退散するに限る。私はそぉぉっとその場を離れようとしたのだが……
「どこへ行くんだ巫女娘。せっかく寄せて上げるブラとヒップアップするパンツはいてきたのに、誰にも見せびらかさずに帰るのか?」
「別に見せびらかすために穿いてきたんじゃないですから!」
「ほう。穿いてきたのは認めたな?」
「うっ……」
 そうなのだ。ネット通販で買い物した、という部分は蛍の指摘は合っていたのだ。姉から電話があった後にすぐ、インターネットを覗いて注文して、それが昨夜届いたのだった。買ったのは巫女服ではなく、大胆でセクシーなブラとショーツだった。服の上から見えるものじゃないから、蛍も含めて誰も気付かないかも、とは思ってはいたが、真儀瑠先輩には見事に見抜かれてしまった。この先輩、何者?
「なに? 鈴音、今日はいつもと下着が違うっていうの? そんなの、外見だけで分かるわけないじゃないか」
 蛍が不機嫌そうに言う。本格推理小説のトリックが、実は未知の毒薬だった、というオチだったかのような「そんなの分かるわけねーだろ!」という感じの不満顔だ。ユウさんは「ああー、そういうことだったのね!」という感じの納得顔だった。
 先輩はというと、丁度良いオモチャを発見した悪ガキのような表情をしている。これはまずい。私は生贄の羊だ。早く逃げなければ……
「巫女娘、色はどんなのだ? アレか、巫女だから朱色か?」
「こ、こんな所で下着の色なんて言えるわけないでしょう! 蛍だって聞いているんだから! それともなんですか? 真儀瑠先輩は自分の下着の色を、今ここで言えるんですか?」
 起死回生の私の反撃の矢だったが、先輩には全く通用しなかった。そうだよ。こんなに美人でスタイルの良い先輩ならば、ネタが下着であっても恥ずかしがる必要すら無いのかもしれない。真儀瑠先輩は抜群のプロポーションの胸を張り、自信満々に言い放った。
「今日の私の下着の色か? 黒だぞ。このガーターベルトと同じ色に合わせた。ちなみに、ショーツはガーターベルトの上から穿いているぞ。それが正式な穿き方だからな」
 言いながら、太腿のガーターベルトを見せつける先輩。大胆過ぎる発言に、私たちは唖然としてしまった。
「なんだ、巫女娘。その目は疑っているな? なんなら証拠として見せてやろうか」
「わー! やめてください!」
 先輩が自分のスカートの裾を掴んで持ち上げようとしたので、私が咄嗟に先輩の腕を抑えて制止した。ユウさんだけはちょっと残念そうな表情をしていた。先輩の下着を見たかったのだろうか? ユウさんって、もしかして百合?
「巫女娘よ、私は自分の下着の色を正直に告白したぞ? 次はお前の番ではないか」
「えっ……」
「巫女娘が言った後は、浮遊霊ユウの番だな。幽霊ってどんな下着を穿くのか、とっても興味深いぞ」
 言って先輩はニヤリと笑った。でも残念。先輩は幽霊が見えないし、だから幽霊に関する知識も少ないし、私から受けた説明も実感として身についていないのだろう。幽霊は形態変化で、自由に服装を変えることができる。例えば、今仮にウエディングドレスを着ていたとしても、その気になれば次の一瞬には喪服にチェンジすることだってできてしまうのだ。だから、今穿いている下着の色なんて聞いたって、いくらでも変えることができるんだから、無意味だろう。
 ん? でも逆に言えば、ユウさんさえその気になれば、どんな下着でも穿くことができるのか……とてつもない大胆な下着だって可能なはずだ。
「私は、参考のために他の女の人がどんな下着を穿いているかは知りたいけど、自分がどんな下着かは他人には見せないよぅ。私が下着を見せる相手はケイだけだもんね~」
 その言葉に、私は思わずムッとした。まさかユウさん、お風呂上がりに下着姿でケイの前をウロチョロしてたりしないでしょうね……って、ユウさんは幽霊だからお風呂入る必要すらも無いんだった……冷静さを失っているなぁ、私……
 私はユウさんの台詞をそのまま先輩に伝えた。ユウさんの発言は、翻訳しなければ先輩には伝わらないから面倒ではあるわよね。で、ユウさんの発言を聞いた先輩は意固地になったらしい。「なんとしてでも浮遊霊ユウの下着の色を聞き出せ、巫女娘!」と、あろうことか私にプレッシャーをかけてきた。そりゃまー、先輩はユウさんの声を聞くことはできないのだから、私が聞き出すしかないんだけどね。
「というわけでユウさん、下着の色は?」
「鈴音さんが言うのが先だよぅ」
 私が一歩ずいっと踏み込んで迫ると、気迫に押されたか思わずユウさんはふわりと浮遊して後方に身を引いた。幽霊って、こういう時は身軽で便利よね。
「ユウさん、先輩に逆らうとロクなことにならないから、正直に言った方がいいよ」
「だから鈴音さんが言うのが先だってぇ。……あ、鈴音さんは巫女さんだから、もしかして下着穿いていないとか?」
「んなわけないわよっ!私は巫女服なんか着ないし、下着だってちゃんと穿くもん!」
 ……って、あれ?
 ユウさんがフワフワと浮いている。物質化していない?
「あれ?蛍は?」
 私が疑問を投げかけて初めて、先輩もユウさんも辺りを見渡した。蛍の姿は無い。
「後輩……あいつ、女同士の下着の話題が恥ずかしくて、秘かに一人で逃げたな」
「うわー、ケイ、男の根性ないねー」
 ユウさんの発言は逆セクハラだと思う。でもちょっと同感な私もいる。
 だけど、肝心の蛍が先に逃げ帰っちゃったってことは……せっかく恥ずかしい下着を穿いてきた私の苦労の意味が無くなったんじゃ……
 今日もまた一日無駄に浪費してしまった。こんなんで大丈夫のだろうか、自分。悪夢の転校が現実味を帯びてきたかも。
「百聞は一見に如かずだ。後輩はいなくなってしまったことだし、巫女娘、下着の色を言う必要は無いぞ。スカートをめくって、直接私に見せてみろ」
「い、いやー! 百合、百合!」
 私は自分のスカートの裾を必死で抑えながら喚いた。真儀瑠先輩はみょーな腕力で、私のスカートをめくりあげようとする。蛍はもう逃げたからいないけど、教室にはまだ他の男子生徒も残っているのに! 少しずつ、まるで水平線の彼方に現れた初日の出のようにスカートの裾はせり上がっていった。太腿が段々あらわになってきた。恥ずかしい。私も必死に力をこめてスカートを守ろうとしているんだけど、先輩の力は異常だ。ま、まずい。このままではパンツが見えてしまうのも時間の問題だ。
 窮鼠猫を噛む、という。追いつめられてやぶれかぶれとなった私は、攻撃は最大の防御へと転じることにした。片手は自分のスカートの防衛に残し、もう片方を先輩のスカートへと伸ばした。
「む、巫女娘。私のスカートをめくろうとするとは。百合か。百合なんだな」
 先輩もまた、片手で自分のスカートを守り、もう片方で私のスカートを攻める。もうこの時点でお互いムキになっていた。さすがにユウさんが私と先輩の間に割って入って制止しようとしたが、幽霊だから透けてしまってできないことに気づき諦めた。半ばあきれ顔で「もうやめなよぅ」と言っているが、そもそもユウさんの声は先輩には聞こえない。クラスメイトたちは遠巻きにしながらも、この仁義なき戦いの模様の推移を見守っている。いや、できれば止めに入って欲しいんですけど。それが無理なら、せめて見守るのではなく、無視してくれた方がありがたいんだけどなぁ。このままじゃパンツが、それも超恥ずかしいパンツがみんなに晒されてしまいそうだ。
「何やってるの二人とも?」
 すぐ近くで声が聞こえた。慌ててそちらを向くと、疲れたような表情をして蛍が立っていた。
「あ、蛍」
「後輩……」
 私も先輩も、ここにきてようやく我に返った。自分たちがやっていることが、あまりにもバカらしく恥ずかしいことに改めて気付き、二人共に赤面しながら相手のスカートを離した。んで、取り繕うように自分のスカートの裾を直し、皺を伸ばす。
「後輩。帰ったのではなかったのか?」
「トイレ行っていただけです」
「け、蛍。今、わ、私のぱ……ぱんつ……見えた?」
 確認だ。念のため確認だ。見えてはいなかったという確信はあった。だって、もし見えていたならば、蛍がこんないつも通りのクールを装った冷静な反応をしているはずが無いじゃない。特に今日は超恥ずかしいくらいの大胆な下着なんだし。蛍だって男の子であるからには、こんな大胆な下着を見ちゃったら興奮してしまうのは仕方ないだろう。……ってゆーか、この悶絶下着を穿いているのを見ても蛍になんとも思われないのだとしたら、私って女として終わっている。
「……」
 蛍は無言。あれ?
「ねぇ。蛍。どっちなの? 見えた? 見えなかった?」
「……ノーコメント。さ、先輩。帰宅しましょう」
「うむ」
 うわぁ。気になる。気になるよぅ。見えた、見えなかった、どちらよりも遥かに後を引いて気になる答えだよ。隠す必要無いじゃない。正直に言えばいいのに。なんか、蛍の網膜を引っぱがして、まっさらな物と取り替えたい。
「鈴音さん、帰らないの?先に行ってるよ」
 ああ、結局下着作戦も失敗だった。蛍に気付いてもらえずに、先輩に察知された時点で私の負けは確定だったょ。もう最悪。死にたい。

「おはよう、鈴音」
「おはよう、鈴音さん」
「おっ、おはよう……」
 無理に笑顔を浮かべようとしたが、ぎこちなくて十中八九失敗していたはずだ。緊張のあまり赤面しているのが自分でも分かる。
「どうした鈴音。顔が赤いぞ。熱でもあるんじゃないのか?」
「だ、大丈夫だから、なんでもないから……」
「鈴音さん、ホントに今日は顔がすごい赤いよ? 病気なんじゃないの? 保健室に連れてってあげようか?」
「病気じゃないから。大丈夫だから」
 そもそもユウさんに保健室へ連れてってもらうって、全然意味が無い。蛍が二メートル以内に居ないユウさんは透けてしまうのだ。それだったら、私一人で保健室へ行くのと何も変わらない。
「そ、それよりユウさん。なんか最近学校で、新しい占いの噂が流れているの聞いたことない?」
「え、それは聞いたことないなぁ。ちょっと情報集めてくるね」
ユウさんは浮遊しながら教室を出て行った。扉は閉まっていたけど、透けて通り抜けて行った。
 ──ごめんね、ユウさん。
 嘘をついた罪悪感はあったが、大事の前の小事だった。これから私は、一緒にもっと大きな嘘をつくことを、蛍に謀らなければならないのだ。その場にユウさんがいると話が進まないような気がしたので、新しい占いなんて嘘を言って追い払ったのだ。
「じ、実は蛍に、折り入って頼みがあるんだけど」
「うん、いいよ」
「……ってまだ内容言っていないでしょ」
「僕が、大事な友達の頼み事を、そんな薄情に断るわけがないじゃないか」
「蛍……」
 今の発言、ちょっとジーンときちゃった。蛍は私のことを、友達としてとても大事にしてくれているんだ……あくまでも「友達」というのが引っかかる部分ではあるけど。
「僕は横暴な先輩みたいにフランス料理のフルコースおごれなんて無茶なことは言わないから。豚丼一杯くらいで手を打ってあげるよ」
 ……蛍の「友情観」というものが初めて見えた気がしたよぅ。
「なっ、何それ! 友達とか言っておいて、食べ物の方が重要なわけ?」
「うん。友達はいなくても生きて行けるけど、食べ物が無いと生きて行けないからねぇ 」
「死にたがりの人がそんなこと言っても説得力皆無だよ!」
「どうせ生まれてきてしまったんだから、死ぬ前に豪勢な物食べておきたいじゃん。最後の晩餐だよ」
「豪勢なものなんか食べなくてもいいから、わざわざ死ななきゃいいでしょうが……って、こんなこと言っている場合じゃなかった……」
 早く用件を切り出さなければ、ユウさんが戻って来てしまう。私は深呼吸で気持ちを落ち着けた。心の波はおさまったが、顔だけはいまだ火照ったままだ。
「実は、その……姉に無理難題を言われてね、話が長くなるから詳細は省くけど、……今度の日曜日に姉がこっちに来るのよ」
「ほう。それで僕にどうしろと?」
「そ、それで……」
 ああ、顔が、顔が赤面している。自分でも分かるくらいだから、他者からみたらまるで病気じゃないかってくらいに真っ赤なのだろう。
「それで、……蛍にはね、……演技をしてほしいのよ。そう。演技、演技。あくまでも演技ね?」
「何の演技をするのさ? 『ハムレット』でもやるのかい? 『生きるべきか、死ぬべきか。それが問題だ』とか。全然問題じゃないよな。僕だったら即座に死ぬ方を選ぶよ」
「そうじゃなくて! その……」
 両手の人差し指を胸の前でつつき合わせながら言いよどむ私。相手の様子を窺う上目遣い。
「なんだよ、はっきり言えよ。『ハムレット』でなければ『ロミオとジュリエット』でもやるのか?」
「だから演劇から離れてよ。私が言う演技は……演技ね、演技なんだけど、その……私と蛍が……つ、つ、付き合っている……という演技をしてほしいのよ」
「はぁ?」
 蛍は表情で「わけわかんねぇよ」と主張していた。
「いやその……あのね、姉が無理難題を言ってきて、『鈴音と式見蛍が付き合っていない限り、鈴音には現守高校をやめてもらう』とか言っているのよね。ほら、私、この学校好きだし、やめたくないから、なんとかしたいわけよ。別に、蛍と付き合っている演技をすきこのんでやるわけじゃないのよ」
「なんで僕と鈴音が付き合っていなかったら、鈴音が学校やめなきゃなんないんだよ? どういう理屈さ?」
「そんなの私に分かるわけないじゃない。言っているのは姉なんだから。とにかくお願い。協力して。別に本当に恋人として付き合うわけじゃないんだから。あくまでも演技なんだからね? 勘違いしないでいいからね? 姉に対して、『神無鈴音と式見蛍は恋人として付き合っている』というのを見せつける演技をすればいいのよ」
「……」
 蛍の無言が怖かった。
「ど、どうなのよ、蛍。私のお願い、聞いてくれるの?」
「ダメだね。できないよ」
 ガーン!!! という擬音語をそのまま表情に変換したかのような顔をしてしまったらしい。この時点で私は負けていた。
「ど、どうしてダメなの? 私、学校やめなくちゃなんなくなるよぅ」
「だって面倒くさいもん」
「私が学校やめてもどうでもいいってわけ?」
「鈴音は学歴なんて必要ないだろ? どうせ巫女になるんだし。ああ、学校やめるんだったら、餞別として、巫女服でもプレゼントしてあげるよ。インターネットのコスプレコスチュームの通販で買ってあげるよ」
「巫女服いりませんから」
 条件反射的に言い返してしまった私だが、そんな問題ではないのだ。眉をひそめて困った表情をしてしまっていたのだろう。蛍に弱みを見せてしまったのが後から思えば失敗だった。
「豚丼一杯じゃ割に合わないよ。面倒くさいから」
「……」
 ここにきてようやく分かった。駆け引きだった。報酬をつり上げるために蛍はわざと渋っているのだ。人の弱みにつけこんでそういうことをやってはいけないと、小一時間くらい正座させて説教をしたいところだが、今はそんな余裕が無い。ユウさんが戻ってくる前に話をつけなければならない。ここは私が全面的に譲歩することにした。
「分かったわよ。豚丼二杯にする」
「二杯もいっぺんに食べられないよ」
「一杯目とは別の日におごるから」
「分かった。取引成立だな」
 ……蛍、覚えていなさいよ。後で二時間くらい説教してやるんだから。いや、もうこの際だから、死にたがりなんていう態度に対しても一晩くらいかけて徹底的に諫めてやるんだから。
 ん? それって、私と、蛍とが、一晩共に過ごす、っていうこと?
「どうした鈴音? 顔が赤いぞ? やっぱり病気か? 僕に移さないでくれよ?」
 病気じゃないから移りません。死にたがりの蛍でも、病気にはなりたくないのだろうか。
「蛍、じゃそういう演技をするということで、慣れるために今から始めてくれる?」
「ん、まあ、いいよ。豚丼二杯のためだから」
「ねーねー、鈴音さーん! 今ねー、面白い噂話聞いてきたよー。好きな人に想いが伝わる占いなんだってー!」
 ユウさんが元気に教室に駆け込んできた。といってもまだ物質化していないから、扉をすり抜けて空中を浮遊しながら、だけど。
 ユウさんが喜々として占いの詳細を語るが、私は聞き流していた。私は巫女だ。素人の根拠の無い占いになんて興味は無い。
「……鈴音さん、聞いているの?」
「ああ、ごめんね。でも私には占いは必要無いのよ。だって私、け、……蛍と、つ、つ、付き合うことになったから」
「え?」
 ユウさんの顔色が、まるで幽霊のように真っ白になった。いや、幽霊だけど。
「ケイ! それ本当なの! どういうことなの!」
 蛍がユウさんに詰め寄られて、修羅場になっている。私は助けに入らない。豚丼二杯だから、自力で乗り切ってほしい。
 私は、放課後に待ち受ける恐怖の大魔王との戦いを乗り切らなければならないのだ。
 そして。
「後輩! 帰宅するぞ……なんだ巫女娘。いつも以上に敵意に満ちた目で睨んできて」
「真儀瑠先輩、悪いけど、蛍と一緒に帰宅するのはご遠慮いただけますでしょうか? 蛍は……わ、私と、付き合うことになりましたから」
 先輩は、関節が油切れしたロボットのように、ぎくしゃくと動きを止めた。ぎしぎしと耳障りな音を立てながら首を蛍の方に向ける。
「後輩。それ、本当か?」
「ほ、本当です」
 返答に躊躇いがあったのはやむをえないだろう。でも、蛍ははっきりと肯定した。それを聞いて先輩の動きが完全に止まった。
「……」
 あれ? もしかしてこの先輩にとっても、蛍が付き合っているというのは衝撃の事実だったりするのだろうか。
「……そうか。良かったな後輩。彼女いない歴ともこれでおさらばだな。私は一人で帰宅するから。それじゃ」
 先輩は軽く手を挙げ、大きな歩幅で教室を出て行った。ユウさんはというと、教室の隅でふわふわ浮遊しながら体育座りしていじけている。
 な、な、なんか、これって、すごい優越感だよ! 今までは蛍の近くにいるユウさんと真儀瑠先輩に劣等感を抱いていたけど、その強敵二人をあえなく撃退できちゃったよ。ど、どうせなら、このままなしくずし的に、ホントに蛍と付き合うまでに持っていっちゃったりして……む、むふふ……
 これで蛍は私のもの。私は蛍のもの。……って、ああ、何、考えているんだろう、私は。私は蛍のもの、だなんて、そんな、エッチっぽい……でも、いずれはそういうことになるんだろうなー。だって、私と蛍は、つ、付き合っている恋人同士なんだし。
 そ、そこまでは飛躍しすぎにしても、キ、キ、キス、くらいなら……許しても、いい、かな? てか、私が、したいかも……
 なんか私って、すごい青春しているんだって、実感している。この学校もやめなくていいし。蛍とは恋人同士として、堂々といちゃいちゃできちゃったりするし、ちょっと恥ずかしくはあるけど。そしてクリスマスイブの夜なんかに、ムードのある中で、二人の唇がそっと重なり合って……そんな二人を降り始めた白い雪がやわらかく包んで……うわー、なんか赤面しちゃうくらいロマンチック……わ、私って、こんなに幸せでいいんだろうか。
 と、携帯電話が鳴った。薔薇色の未来図が脳内の隅の方に一時的ではあるけど押しやられた。
 電話は姉からだった。出ないわけにもいくまい。
『もしもし鈴音、私。突然だけど日曜日、そっちに行けなくなったから。急に結婚式と葬式の予定が入ってしまったので』
「え? でも日曜日は友引じゃ……」
『式見蛍とはどうなったの? ちゃんと恋人同士になれた?』
「そ、それは……もちろん……」
『なんか歯切れが悪いわね。でも式見蛍と付き合っているというのなら安心したわ。あ、それともう一つ。この前話した、国との契約が来年度は切れるという話。あれ、無くなったから。競合した相手の書類に不備が見つかって、落札が無効になっちゃったのよ』
「は? ってことは……」
『だから、来年度以降も神無家は国の仕事を継続してできることになったのよ』
「じゃ、私がこの学校をやめなくちゃならないという話は、無くなるってこと?」
『そうね。鈴音もそっちの学校、やめなくてもいいから。式見蛍と恋人として、楽しい学園生活をおくりなさい。それじゃ』
 電話は切れた。寝耳に水の話だけが残った。
「なんだ、鈴音。今の話の様子では、お姉さんの無理難題は終わったのか。だったらもう僕たち、恋人同士の演技もしなくていいってことか?」
「う、うん……」
 な、なんと私の馬鹿! ここでついつい正直に頷いちゃった。これで蛍と擬似恋人を続ける中でなしくずし的に本当の恋人関係に昇華するという作戦は水泡に帰した。それのみならず。
「……鈴音さん、恋人同士の演技ってどういうこと?」
「巫女娘、今の後輩の台詞、聞き捨てならない内容だったように思うのだが?」
 変な冷や汗が出てきた。クリスマスイブの甘い幻想は妄想と消え、苦い現実だけが背中を這い上がる。いつの間にか私の背後には、まるで背後霊のごとく、ユウさんと真儀瑠先輩が佇んでいた。

 結局私は、ユウさんと先輩に豚丼をおごらなければならなくなった。ユウさんはその場で食べるわけにはいかないのでテイクアウトだ。
 姉の話は、私と蛍をくっつけようとするための嘘だったから、学校をやめる必要が無くなったのは本当に良かったと思う。でも、蛍と擬似恋人体験をすることもできずじまいだったし、代償として蛍におごるはずだった二杯の豚丼をユウさんと真儀瑠先輩におごるはめになった。
 結局、ユウさんと先輩はおごられ得? 私のおごり損?
「結局豚丼食べ損なっちゃったじゃないか。死にてぇ」
 死にてぇは私の台詞だわよ。

メイド服、巫女衣装で萌える?

神無鈴音のドキドキ合コン☆初・体・験――マテリアルゴースト二次小説

「鈴音さん! 鈴音さん!」
 元気のいい美少女の声に、私は振り向いた。……端から見れば、何もないところで振り向いたように見えるかもしれないが、私にはその声がはっきりと聞こえていた。
「あ、ユウさん」
 虚空に向かって、私は笑顔を向けた。もちろんそこは単なる虚空ではない。私には、そこにいる人がちゃんと見えている。いや、正確には人ではなく幽霊だけどね。
 その人、ユウさんは、地に足が着いていない。落ち着きを失っているという文学的表現ではなく、本当に空中に浮かんでいるのだ。だって幽霊なんだから。
「合コンだって。だから私も鈴音さんも人数に入っているから」
 ユウさんは明るい口調で、さらっと唐突なことを言った。光の加減のせいか少し茶色味がかって見えるショートヘアを軽快に揺らし、楽しげな表情でユウさんは私の周囲を浮遊したまま一回転した。幽霊なのに光の加減というのもなんか変だけど。
「……ちょっと待ってユウさん。それって、私に、合コンに参加しろ、ってこと?」
「うれしいでしょ?」
 参加しろ、ってことですらないらしい。参加は既に決定事項らしい。もちろん私はそんなことを承諾した覚えは無い。
「ちょっと困るんだけど。私、そういうの行くつもり無いし」
 それは、私も女の子だし。異性に興味が無いわけじゃない。テレビでジャニ系のアイドルなんかが出ているのを見ると「男の子なのに、かわいいし、かっこいいなあ」と素直に思う。今は恋人はいないけど、恋をしたい気持ちはある。好きな人は……
 ああ、まあ、その話はおいておくとして。
 でも、合コンって、ちょっと違うと思うのよね。な、なんていうか、そういうのに参加する男の人って、最初から性行為にまで持ち込むことを念頭に置いているようで、なんか不潔だ、と思うのよね。ついでに言えば、それを分かっていて参加する女の方も、かっこいい人がいたらカラダを許してもいいと思っているのだから同罪だけど。
 ……てことは、「私も鈴音さんも人数に入っている」と言っていたユウさんも、合コンに参加する、ってことよね?
 ユウさんが合コン?
 本人、合コンの意味をちゃんと分かっているのだろうか? だから率直に尋ねてみた。
 そしたらユウさん、ハリセンボンの子供のように頬を可愛らしく膨らませてプンスカという表情を作った。これが可愛いということを分かっていての表情作りだわね。
「失礼な。合コンくらい知っているわよ。こう見えても昔は『合コンの女王ユウ』とまで称されていたんだから」
「……ユウさん、記憶喪失じゃなかったっけ?」
 ユウさんが合コンの女王だなんて、イメージが湧かない。仮にユウさんが合コンに参加しても、出てきた料理をバクバクと食いまくって、男性陣ドンビキってことになりそうな……あるいは「好きな食べ物は冷凍イクラです」などと非常識な発言をして文字通り場を凍り付かせるとか。
「合コンの醍醐味と言えばやっぱり『お持ち帰り』だよねぇ。英語で言えば『テイクアウト』? ほら、私って幽霊だから、お店とかでのお食事って、ちょっと難しいのよね。下手に誰かに見られたら、透明人間が飲み食いしているように見えちゃうからさ」
 確かにユウさんは、外食が難しい。だから先日私が、真儀瑠先輩とユウさんに豚丼をおごった時にも、先輩は店内で食べていったが、ユウさんはテイクアウトにした。……でも、合コンでいうところのテイクアウトって、全然意味が違うんですけど。
「かっこいい男の人にテイクアウトされて、えっちなことするんだよね。やっぱりゴミと私のような美少女はお持ち帰りに限るよねぇ!」
 ……ツッコミどころが多すぎて、私は対応に困り、結局は絶句しただけだった。ユウさん、テイクアウトの意味はちゃんと分かっていた。……マナーをきちんと守るのは蛍の薫陶を受けたせいなのかどうか、ゴミの持ち帰りには大賛成だけど、自分とゴミを同系列に並べて言うなんて……勇者というか、蛮勇というか……そしていつものことだけど、さりげなく自分で自分のことを美少女だときっぱりはっきりさっぱり断言しているし。他にもツッコミどころがあるような気がするけど、省略するとして……まあ、確かにユウさんは、下手な美少女アイドルユニットのメンバーなんか目じゃないくらいの美少女ではあるんだけどね。はぁ、ただ単に子供っぽいだけの容姿でしかない私から見たら羨ましいよ。ユウさんは美少女で、その上蛍と同居だもんね。これじゃ勝負にならないよ……
 って、別に何かの勝負をしようってわけじゃないんだからね。
 話を戻すけど、私は合コンになんか行きたくない。どんなかっこいい人が参加するかどうかは知らないが、仮に芸能人クラスのイケメンがいたとしても、私はテイクアウトされるつもりなんか無い。大切な初めてを、そんな今さっき見知ったばかりの人に捧げるつもりなんか毛頭無い。やはり、本当に好きな人と、クリスマスイヴの夜のようなロマンチックな状況で……というのが乙女の永遠の夢だと思うのよね。
 お持ち帰りまで行かなくても、男の人と飲んで騒いで楽しい時間を過ごせればいい、という考えで合コンに参加する女の人もいる、というのは私だって承知している。……でも悪いけど、私はそういう雰囲気って得意じゃないし、それほど好きでもない。気心の知れた人とのパーティーなら楽しいかもしれないが、知り合ったばかりの人たちとでは、ねぇ。
 そもそも未成年だから、お酒飲むのはまずいだろうし。
 合コンに参加するくらいなら、家で霊関係の資料でも読んで除霊の勉強でもしていた方がいい。
「鈴音さん、せっかくの合コンなんだから、ビシッとした服でキメて来ないとダメだよ。なるべくなら正装の巫女服で」
 ユウさんは相変わらず超マイペースで、勝手に話をすすめてくださっていた。神無家関係の仕事でもないのに、巫女服なんて絶対に着ないんだから。最近流行っているコスプレだとかなんとかと十把一絡げにされて萌えーだとか言われるなんて、痛くてしょうがない。
「参加人数は全部で六人だって。楽しみだねー!」
 ユウさんの思考や嗜好に干渉するつもりはない。幽霊であっても人格は尊重する。だからユウさんが三対三の合コンに期待を抱くのは勝手だ。……でもそれに私を巻き込まないで、お願いだから。
 でも素っ気なく断ったりすると角が立つ。ここは、もっともらしい言い訳をでっちあげなければ。私はこう見えて気遣いの人なのだ。
「あ、あのね、ユウさん。私は、そういう合コンとかに出ると、姉さんに怒られるんだ。『鈴音、あなた、そんな遊んでいる暇があるのですか? 一日も早く神無家の戦力となるために修練に励まなくてはいけませんよ』と言われてしまうのよ」
 ユウさんは顔色一つ変えなかった。私の言い訳は適材適所ではなかったのだ。
「ああ、それなら大丈夫だよ鈴音さん。深螺さんの許可は取ってあるから。『鈴音もたまにはこういう集いに参加して、見聞を広めて人間力を高めなければ、本で読んだ知識だけでは一人前になれませんからね。必ず合コンに参加するよう、私からも厳命しておきます』って言っていたらしいから」
「……う、うそ……」
 私の弱々しい声を打ち消すかのように、電子音が鳴り響いた。私の携帯電話が鳴ったのだ。かけてきた相手は……神無深螺の携帯電話。つまり、私の、苦手な姉。
『もしもし鈴音? 私だけど。あなた、明日合コンに行きなさい。これは命令ですから拒否は認めません。服装は、別に巫女服でなくてもいいけど、ちゃんと男の視線を意識した、勝負服を着て行くのですよ。コンビニに買い物に行くような普段着は認めません。時間と場所は……』
 私の顔は、ただでさえ肌が白いのに、漂白したトイレットペーパーのように真っ白になっていたに違いない。
「あ、アニメの時間だから、私帰るねー。バイバイ鈴音さん!」
 ユウさんは、私が電話を終わる前に、風のように飛んで行ってしまった。というか、ユウさんを追いかけるように本当に風が吹き抜けて、ピンク色の花びらを舞い上げた。……はあ、こういう時は身軽な幽霊は便利だとは思うが、アニメを優先するユウさんのマイペースぶりも相変わらずだわ。
 姉は言いたいことだけを一方的に言い、私の都合などまったく聞かずに、ぷっつりと電話を切っていた。ケータイを握る私の掌は少し汗ばんでいたが、ケータイの機体自体はまるで氷であると錯覚しているかのように冷たく感じた。
 まただ。まただわ。
 いつ頃からか。顕著になったのは恐らくユウさんと出会ってからだと思われるが、私の周囲に平穏は無い。事件やトラブルだらけだ。そして私は、いつも望まないのに渦中に巻き込まれてヒドイ目に遭うのだ。
 今回もそうなりそうな予感が、ラフレシアの花よりもぷんぷん臭った。……ラフレシアの花なんて図鑑でしか見たこと無いけど。

 そしてユウさんの会話の中で、違和感を覚えつつも明確に認識できていなかったことを、今になってようやく分かった。
 ユウさん、テイクアウトされてえっちなことをするのが合コンの醍醐味とか言っていたけど、今のユウさん、幽霊でしょ。相手の男の人が霊を見ることができる人だったならば、合コンの場では通訳ナシで一緒に騒いで楽しく過ごせるかもしれないが、お持ち帰りには意味が無いじゃない。霊体物質化能力を持つ式見蛍が半径二メートル以内の側に同伴していない限り、普通の人間はユウさんに触ることなんかできないんだから。えっちな行為なんてできないでしょう。
 とにかく、合コンに行かなければならないのは確定なわけで。私の家路、足取りは重く、首は稔った麦の穂よりも垂れて。

 行きたくはない。それだけは確実であり、きつく念を押しておかなくてはならない。
 でも行かなければならない。どうせ行くのなら、「服のセンスの悪い女」と見られたくはないから、できるだけいい服を着て行くことにした。いわゆる勝負服だ。散々迷ったのだけど、下着も勝負下着にした。もちろん、合コンなんかに参加する男に見せるつもりも脱がされるつもりも無い。ただ、なんというか、自分自身の気持ちの持ちようとして、ね。勝負下着をはいて、気持ちを引き締めようと。
 そう。これは姉さんに指示されて参加するのだから、私にとってはある意味戦いなのだ。こんな経験が今後、神無家の巫女の仕事としてどんな役に立つのかは分からないけど。というか絶対役に立たないと断言してもいいんだけど。それでも名言はさけてぼかすのが大人の事情というものかしら。
 おしゃれは足下からというし、靴もきちんと磨いたいいものを履いて行く。お化粧は、口紅だけを塗ることにした。以前に無理をして買ったはいいけど、学校で隣の席の朴念仁が気付いてくれないものだから、使わなくなっていた一品だ。せっかく薄い財布を更に軽くしてまで買ったのだから使わなければ損だ、という貧乏根性こそが、口紅を塗った最大の理由というのは秘密である。そう。私は、け、結構美人なのよ。本来、変なファンデーションとか口紅とか必要は無いのだ。そんな物に頼らなくても地が美人。そう。そうに決まっている。ユウさんにも負けてはいない……はず、……なんだから……。
 薄ピンク色のワンピースの裾を風に遊ばせながら、私は会場の居酒屋へ向かった。開店が五時なので、混み始める前に始めるということで集合も五時だ。つまり、早く行き過ぎてもまだ店が開いていない。大幅な遅刻は大顰蹙だろうが、五分くらいの遅刻なら許容範囲という時間設定だ。
 といっても私は遅刻したいとは思わない。まさか、ラブコメマンガとかでよくあるような「楽しみにしていたデート」みたいに一時間以上前から待ち合わせ場所に行く、なんて奇行をするつもりも無いけど。つまり、目標は五時ジャストに居酒屋に到着、だ。
 日が少し傾いた街を歩きながら、心のどこかに感じていたひっかかりを、少しでも解決しようと考える。合コンが行われる、というのは分かった。ユウさんも、もちろん私もきれいだから、誘われたのだろう。でも、なんか変。
 この合コン、そもそも誰が企画したのだろう。姉さんを使ってまで、私に参加を強要させるのだから、姉さんに対してもそれなりに影響力を及ぼすことができる人物、ということになる。
 その人物が誰であるか。なんとなく想像がつくようなつかないような、微妙な線だが、決定的証拠があるわけでもなく、断定はできないだろうから、その人物の正体については一旦置いておく。で、その人物は、何故、この私神無鈴音を合コンに参加させようと思ったのだろうか。一番考えられるのは人数集めだ。でも姉さんにまで影響を及ぼせるほどの人物なら、わざわざ私なんかを呼ばなくたって、他に要員を集めるのは容易なのではないか。それくらいの人脈くらい持っていて普通なのではないか、と思う。
 私なんて、確かにルックスは美少女だわ。……だ、段々、自分で言っていて苦しくなってきたけど、今日は、ここは、美少女と言い切って通したい。で、私は美少女と仮定して話を進め直すけど、……私って、性格的には、合コンなんかでわいわい騒ぐのは好きではないのよね。ノリが良いとはとても思えない。男の人と気さくに話すことなんて苦手だ。恥ずかしくてすぐ赤面しちゃうし。しかも私は霊能力者で、巫女だ。もちろん黙っていれば相手の男の人に知られることはないだろうが、注意していなければユウさんあたりが口を滑らせて「鈴音さんって、本物の巫女さんなんだよねー。巫女服は着ない主義だけど」とか言っちゃいそう。そうなると、雰囲気最悪だわ。三人の見ず知らずの男の人から好奇の目を向けられて、子ウサギのようにぷるぷる震えて怯える私……ど、どうしてそんなこと言っちゃうのよ、ユウさん……
 ……あれ? ユウさん?
 ユウさんが何を言ったって、霊能力者である私が通訳しなければ、普通の人には分からないんじゃないの? 普通の人は幽霊なんて見えないし、声も聞こえすらしないんだから。
 私の周囲には「類は友を呼ぶ現象」とでも言うべきか、霊能力のある人が多い。いわゆる帰宅部のメンバーは、大半が何故か霊能力者だ。例外は真儀瑠紗鳥先輩くらいだ。でもそれは、帰宅部が特異なだけだ。普通の、本当の一般人は幽霊を見ることはできない。幽霊の声を聞くことはできない。それが常識だ。
 つまり、……合コンに参加するのは全員霊能力があって、幽霊を見たり声を聞いたりできる、ってこと?
 ……もうこの時点でまともな合コンではないわね。既に確定。
 あーでもそうしたら、真儀瑠先輩はメンバーの中に入っていない、のかもしれない。私はてっきり、今回の合コンを企画したのは真儀瑠先輩だとばかり思っていた。そして当然先輩もメンバーの内の一人だと勘違いしていた。真儀瑠先輩、ユウさん、私。の三人が女子出場選手だと思ったのだけど……だとしたら、あと一人紅組は誰が参加するんだろう?
 ――まあ、深く考えても意味無いか。行けば分かることだし。
 むしろ先輩が参加しないのはありがたいと考えるべきかもしれない。あの人は、黙っていればすごい美人だ。流れるようなストレートの黒髪に、ファンデーションも化粧も不要の顔立ち。女優もかくやという存在感。まさに女神の化身という感じがする。あの人とユウさんと並ぶと、正直な話としては私は見劣りするのは否めない。わざわざ肩身の狭い思いをするために行きたくはない。
 先輩は黙っていれば美人ではある。でも、黙ってはいない。とにかく横暴で尊大で、やたらとトラブルを巻き起こし、トラブルを引き寄せるし、あの先輩の存在自体がもうどう考えてもトラブルそのものだし。あの先輩が何か物事にかかわって、平穏無事な決着で落ち着く、なんてことは考えにくいのだ。

「ここだわ」
 左手の腕時計で確認すると、時刻は五時を数秒回ったくらいだった。時間通りと言っていいだろう。もし冬だったらもう暗くなっている頃だが、今の季節だったらまだ高い位置に太陽が残っている。昼間の暑さの名残も一緒に残っている。周囲が明るくても、営業中であることを示すためか、全国にチェーン展開されている有名居酒屋の看板には明かりが灯されていた。
 ――だ、大丈夫、かしら?
 ここに来て、私はちょっとビビってしまっていた。私は未成年だ。容姿も、ちょっと子供っぽい。胸だってそんなに大きくない。店に入った時点で未成年と見抜かれて、追い出されたりしたら、と考えると急に不安になってきた。未成年お断り、と言われての退去は、かなり恥ずかしいし情けない。
 でも、ここに来て引き返すこともできまい。思い切って中に入ることにした。こう見えても今日はいつもよりほんのちょっとアダルトな勝負下着をつけているんだから。神無鈴音アダルトヴァージョンなんだから。
「いらっしゃいませー!」
「いらっしゃいませっ! 何名様でしょうか?」
 居酒屋らしい、と言っていいのだろう。威勢のいい店員たちの声に迎えられた。
「おう、巫女娘! 遅かったな。こっちだぞ」
 奥の方から男言葉の女声が聞こえた。私はそちらへ向かって歩を進めた。店内には料理の時にあがる湯気や、揚げ物を作っているのだろう、油の香ばしいにおいやジュゥゥという弾ける音が立ちこめ、店員さんたちがビールジョッキを準備してガラス同士が触れあうガチガチいう音も耳に響く。大衆居酒屋、という感じだろうか。会社帰りのOLさんとかでも入り易い、お酒もだけど料理の種類と量とで支持を得ているお店だ。
 それにしても、真儀瑠先輩が来ているとは……
 私達の合コンの場は、六人がけのテーブルだった。ラッキーなことに小上がりではなく椅子席だ。現在、料理が運ばれている最中だった。二人の店員さんが忙しく行きつ戻りつしている。
 既に来ているメンバーを見て、私は絶句した。口をぽかんと開け、席に着くのも忘れてその場に立ち尽くした。
 立ち上がって私を迎えてくれた長身の女性が、真儀瑠紗鳥先輩。帰宅部部長だ。さりげなく体の線の美しさを魅せる、妖艶でいて清楚さを失わない白いブラウスの上に薄いグリーンのカーディガンを羽織り、下は黒のスカートといういでたちだ。この合コンを企画した人でもある。そう断定して間違いないだろう。
「遅刻だぞ、巫女娘」
「先輩、お願いですから、巫女娘という呼称はやめてもらえませんか。私、さっき店員さんにすれ違いざまに変な目で見られちゃいました」
 私はジト目で先輩を睨み上げたが、暖簾に腕押しというか、先輩はそんなことで動じたりなんかはしない。腰に両手を当てて、スタイルの良い胸を反らし、尊大な態度で言い放つ。
「遅刻した罰だ。巫女娘の席は、後輩から遠いここだ。壁際の、一番手前通路側」
 三人対三人で向かい合う形で六つの椅子が並べられている。真儀瑠先輩以外に、既に壁際に二人、入り口側に一人の人物、……と幽霊が座っていた。
「あ、鈴音さーん。そのワンピースかわいいねー!」
 ユウさんが服を褒めてくれたが、さして嬉しくはなかった。嫌な気分ではないのだが、喜んでいる場合ではないのだ。
 ユウさんが居るのは当然だ。だって昨日、ユウさんも参加すると、自分で言っていたのだから。ユウさんの席は私の隣、つまり壁際の真ん中だ。ユウさんはというと、いつものようなアニメキャラもびっくりのレースふりふりのロリータ服、もうむしろどこの国のお姫様なのっ、って感じの華やかな服を着ていた。ユウさんの場合はお酒や料理をこぼして服を汚す心配も無いしね。幽霊の服というのは、幽霊がイメージすることによって自由自在に変更できる。汚れてしまえば、新しいものにイメージし直せばいい。本人は風呂に入る必要も無いし、トイレに行く必要すら無いんだし。
 そして、合コンに誘われた時に感じていた違和感の正体が分かった。そうだよ。ユウさんは幽霊で、実体が無い。そのまま合コンに参加してどうするというのだ。いくらお姫様さながらの華美な衣装を身に着けても、それはそう見えるだけであり、実体が無い。テイクアウトされてもえっちなことができないという以前に、居酒屋で料理を食べることなんてできないのだ。そのまま合コンに参加していれば、の話だが。
「やあ、鈴音……巫女服着て出直してきて」
「何言っているのよ蛍!」
 思わず言い返してしまった。私は肩で息をした。そうだよ、迂闊だったよ、私。どうしてその可能性に思い至らなかったのだろう。
 ユウさんの更に隣、壁際の奥の席には式見蛍がいた。私のクラスメイトで、教室では隣の席の男の子だ。小柄でほっそりしていて、女装すればまともに女の子と勘違いしてしまう。……というか、勘違いしてしまったことがある。そんな美少年だ。口癖は「死にてぇ……」。
 ま、まあかなり妥協そうとう譲歩が必要だけど、私、真儀瑠先輩、ユウさん、そして蛍。ここまでの四人は、いいとしよう。事前情報だけでも推測できたはずのメンバーだ。
 でも、入り口側の奥の席、つまり蛍の真向かいに座っている女の子の姿を見て、この合コンが普通ではないことを確信せずにはいられなかった。
「あ、神無さんこんばんは。……兄さんが、『巫女服を着てきた鈴音を見ることができるぞ』って言うから楽しみにして来たんですけど……普通の服ですね」
 がっかりしたような声で私に挨拶してきた彼女は、私よりも年下で、容姿も年相応だった。しかも、どこかの高校の制服を着ていた。よくその格好で店に入れたものだと思うが、……それもそのはず。彼女は霊体であり、一般人の店員の目には見えない存在なのだから。
「妹さん……」
 私に巫女服という不埒な期待をしていた彼女の名前は式見傘。向かいに座っている式見蛍の一つ下の妹だ。女性的な顔立ちの蛍とはよく似ていて、蛍の性別を本当の女性に変えて、髪型をちょっと変えて制服を着せれば、そのまま妹さんになりそうな感じだ。
「はい、失礼します!」
 突っ立ったままの私の横を擦り抜けて、店員さんが次の料理を持ってくる。レタスやアスパラガスやトマトに、フレンチドレッシングがかかっているサラダ盛りだ。
「巫女娘、突っ立っていたら邪魔だからさっさと座れ」
 真儀瑠先輩に促されて、渋々という形で私は指示された席に座った。真儀瑠先輩が容姿以外でも大人だな、と思うのは、こういう周りに対する気遣いができるところだ。……言い訳させてもらえば、今の私はショックが大きくて、周りなんか全然見える状況じゃないよ。
「……先輩、この合コン、ちょっと変じゃないですか?」
「どこがだ?」
 先輩は邪魔にならない場所に立ったまま、私の方を見ずに入り口の方を凝視している。まだ来ていない最後の一人を待っているのだ。私は、黒髪が優雅に揺れる後ろ姿の先輩に向かって抗議する。
「合コンなのに、男は蛍一人しかいないじゃないですか。それなのに女は四人。これじゃ三対三にならないじゃないですよね?」
「巫女娘よ。いつ、誰が、三対三の合コンだなどと言ったのだ?」
 真儀瑠先輩は振り返らずに静かに言った。
「そ……そう言われて、みれ、ば……」
 昨日のユウさんとの会話をプレイバックする。ユウさんは「六人での合コン」とは言っていたが、三対三とは言っていなかったかもしれない。
「そ、それって何ですか? 騙しですか? オレオレ合コン詐欺ですか? 叙述トリックですか?」
 ちょっとヒステリックになって声が半オクターブ上がった私に対し、先輩はちょっとだけ振り向いた。悔しいけど見返り美人図だった。
「巫女娘、そんなに合コンに期待していたのか? イケメン男三人の中から、よりどりみどりで誰かを選んで、お持ち帰りされたかったのか?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
 そうではない。そうではないけど……
 私は俯いて、テーブルの上、自分の目の前に置かれているお通しに視線を落としてた。白と青紺の四角い皿にふんわりと盛られている、わらびのみそ漬けだろうか。
「あ、来た来た! こっちこっち!」
 最後の一人が登場したらしい。先輩が背伸びして手を振っている。
 そして……姿を現した六人目のメンバーを見て、私は大いにのけぞった。後ろが壁なので、ごつんと低く鈍い音をたてて、脳天に星が瞬いた。
「真儀瑠紗鳥、本日は合コンに招待していただき、ありがとうございました。私は合コンというのは初めてでして、大変楽しみにしています。王様ゲームもしてみたいですし、お持ち帰りもされてみたいものです」
 この声、この口調、……どう考えても、この場に最も相応しくない人物だ。そして、私がよく知る人物だった。
「こんばんは深螺さん」
「こんばんはー」
「こんばんは、神無さんのお姉さん」
 蛍、ユウさん、妹さんも、次々と私の姉に挨拶した。
 そう。
 最後の登場人物は、あろうことか、よりにもよって私の姉、神無深螺だった。長いホワイトの髪を持つクールな美人なので、周囲の店員やまだ少ない客からも注目を集めているのが分かる。強力な霊力を誇る巫女だけど、今はさすがに巫女服ではなく洋服姿だった。だけど、胸元が大きく開いていて、日頃家で見かけるスカートよりも随分短いスカートを穿いている。明らかに姉は、勝負服を着ている。バストも、いつもよりもボリューム感があって、襟ぐりからのぞく谷間はくっきりと深い。間違いない。下着も、勝負下着だ。中級悪霊を相手にする以上に、姉は気合いが入りまくっているのだ。
 姉は入り口側の真ん中の席、式見傘の隣に座った。入り口側の一番手前、つまり私の真っ正面には真儀瑠先輩が座った。その真儀瑠先輩が、いつものニヤリという笑顔を浮かべて高らかに宣言する。
「よし、六人全員揃ったな。これから楽しい合コンだ。本来ならば食べ飲み放題のコースというのは無いのだが、私が無理に頼み込んで四名様食べ飲み放題ということにしたので、遠慮せず食べて飲んでくれ」
 先輩には不思議な人脈と不思議な実力がある。……あれ、四名様?
「……巫女娘。お前の言いたいことを当ててやろうか。どうして六人いるのに四名様か、だろう。ユウと傘ちゃんは霊であり、私も含めてだけど、店員には姿が見えない。つまりはここに居ないことになっている。席は六席用意してもらっているが、ここに居る我々はあくまでも四名様だ。四人分の料金で六人が食べ飲み放題できる、という寸法だ」
 詐欺だ。
 まあ、警察に告訴したって、警察官だって幽霊は見えないだろうし、透けてしまうから手錠をかけることだってできないんだけどね。さすがに良心の呵責で、私はちょっと高い椅子に座り心地の悪さを覚えた。
 そうこうしている間にも、料理は次々運ばれる。お通しは四つしか並んでいないけど、ユウさんと妹さんは気にしていないみたいだ。
 でっかいカニまで出てきた。タラバガニだろうか、高そう……
「飲物は何にする?」
 先輩の問いに、私と蛍はウーロン茶と答えた。気が合う……と言いたいところだけど、未成年だから、消去法でこれくらいしか選択肢が無かっただけなんだけどね。
 真儀瑠先輩は中ジョッキでビールを頼んだ。この場にいる六人、ユウさんは正確な年齢は不詳だけど、とりあえず一番年上なのは姉の神無深螺だ。それでも十九歳。つまり全員未成年なんですけどね……
 その未成年であるはずの姉も、日本酒を頼んでいた。まあ、神無家の場合、日本酒を扱うことも多いし、飲む機会も多いから、法律どうのこうの言うのはナンセンスってものだ。そもそも神無家の存在自体が日本における超法規機関のようなものだし。
「じゃあ私はカルピスサワーにする!」
「それじゃ私はユウに対抗してウーロンハイでお願いします!」
 霊体の二人が、どう考えても悪ノリしてお酒を注文した。ユウさんは浮遊霊、妹さんは体は北海道の実家にいて、幽体離脱によって魂だけがこちらに来ている生き霊だけど、……二人とも悪霊ということで認定してもいいだろう。三連単で懸けてもいい。この二人、絶対に酔って、それが悪酔いで、周囲に迷惑をかけまくる。周囲という語をもっとはっきりと限定すれば、主に私と蛍だ。
「カルピスサワーカルピスサワーカルピスサワー!」
「ウーロンハイウーロンハイウーロンハイ! 真儀瑠さんには私とユウの声が聞こえないから、兄さん通訳してよ!」
 蛍は例によって「死にてぇ……」と言いながら、二人の希望を真儀瑠先輩に伝えた。幹事の先輩から注文を受けた男性店員が、四人しかいないのにいきなり六つの注文に首を捻りながらも、カウンターの方へ行った。あの若い男性店員、真儀瑠先輩と姉さんを見て気圧されていたようだ。私の方には一瞥すらしなかったけど。ユウさんと妹さんは、共に美少女ではあるが、やはり普通の人には見えていないらしい。
「……って、四名様料金だけで、六人が飲み食いしようとする魂胆はとりあえず理解しました。納得はしていないですけどね。それよりも、さっきもちょっと言いましたけど、なんなんですかこの男女構成比は。男一人に女五人。こんな合コン、前代未聞ですよ」
「前代未聞と言うな。空前絶後と言え」
 その二つ、どう違うというのだろう。
 真儀瑠先輩はあくまでマイペースだ。ということはつまり、私の方が振り回されつつあるということに他ならない。
「いいか巫女娘。お前、勘違いするなよ。この私、真儀瑠紗鳥は、普通のことをやって普通に終わって、そのまま歴史の流れに埋もれてしまうのを是としない。三対三などという、その辺のどこにでも転がっているような合コンをやって歴史に名を残せると思うのか?」
「別に、歴史に名を残したいとも思いませんし、仮に歴史に名を残すにしても、合コンで、というのはナシじゃないですか?」
 先輩は大げさに溜息をつき、アメリカンな人のように肩の上で両てのひらを上に向けた。
「小さいな、巫女娘。人間としての器も、胸も小さいぞ」
 大きなお世話だ。
「身の回りの、一見些細に思える部分から、世界というのは変えて行くものだし、変わって行くものなのだ。小さな変化がたくさん集まって、それが大きな変化になるのだ。たかが合コン、されど合コンだ。合コンでお持ち帰りされてこそ、初めて女として一人前と認められるのだ」
「そんな一人前だったら別にいりません。……てか蛍も何か言ってやってよ」
「いや……この場に来てから今更何かを言ったって遅いし……」
 な、何をそんな、若いくせに、定年退職直前にリストラされた挙げ句に奥さんに逃げられて人生に諦めきったオジサンのような表情と口調で、後ろ向きな発言をしているのよ。
「鈴音、いいではありませんか。一対五の合コンなど、滅多に経験できるものではありません。自慢できます」
 発言者は私の目の前、いつも通りの冷静な表情に平坦な口調、驚異にして脅威の姉だ。そんなこと、本当に自慢したいと思っているのだろうか。
「それに、女の側からすれば、狙うべき男が一人だけですから、迷わなくて済みます。これがもし三対三の合コンだったりしたら、最低でも一人は外れ、大方の場合は二人外れ、ケースによっては三人とも外れだったりするものなのですから」
「なんなの姉さん。その、合コン常連みたいな物言いは……」
 私が反論の勢いを失った辺りで、注文していた飲物が運ばれてきた。あの若い男性店員だ。真儀瑠先輩と姉さんに対してだけ愛想のいい笑顔を振りまいていた。……まあ、別にいいけど……
「さあ、飲物は揃ったな? では、かんぱーい!」
「「「「かんぱーい」」」」
 先輩の音頭に、幽霊も含めて四人の声が唱和した。一人足りないけど、それは私である。
 ユウさんはいきなりエンジン全開。ウーロンハイをぐびぐび一気に飲んでいる。それを見て「飲みっぷりで兄さんにアピールするなら私だって負けないんだから!」とか言って妹さんがカルピスサワーの一気飲みを始めた。お酒の一気飲みは危険なので、マネしないでください。ユウさんと妹さんは霊だから急性アルコール中毒で急逝することもないはずだから、あくまでも例外だから。
 あれ? なんか、おかしくない?
「あーーっ! 私が注文したの、カルピスサワーだったのに、傘が勝手に飲んじゃった!」
「違うでしょー! ユウが先に間違えてウーロンハイ飲んだから、私は仕方なくカルピスサワー飲んだだけなんだもん!」
「飲みっぷりで私に負けて蛍にアピールできなかったからって、難癖つけないでよね」
「兄さんは、お酒の一気飲みなんていう、危険であまり品の良くない行為をする人なんて嫌いだもん」
 妹さん、自分だって一気飲みしていたくせに。
「まあまあ、傘も、ユウも落ち着けよ。食べ飲み放題なんだから、また注文すればいいだろう」
「あ、そうだよね。さすが兄さん、頭いい~♪」
「今度は一気飲みはしないから、ケイが口移しで飲ませてくれると嬉しいなー」
「あ、ユウずるい! 兄さん、ユウの口移しなんて、なんにも良くないよ。唇だって荒れているし。それよりも、私の方が、若くてぴちぴちした唇だよ。ほら、……んむぅー」
 いつも通りと言えばその通りなのだが、ユウさんと妹さんが言い争いを始めた。蛍が深い深い溜息をつきながら、「カルピスサワーとウーロンハイをもう一つずつお願いします」と先輩に頭を下げていた。
「やはり合コンというのは楽しいですね」
 そんな的はずれな感想を口にしたのは姉だった。もう日本酒に酔ったのだろうか。こんな喧嘩が楽しいというのか。
 ――やっぱり来なければよかった……
 率直な感想だった。まさかこんな面々での合コンだったとは。しかも姉まで来ているし。時間と労力の損失だ。家でテレビでも観ている方が良かったよ。
 でも来ちゃったものは仕方ない。せめてお料理だけでもたくさん食べて、損失補填というか元を取らなくちゃ。
 私はカニの足を取った。カニは、殻を剥くのが大変だけど、その手間も含めて美味しいのは確かだ。
「あ、鈴音さん、ズルい!」
 ユウさんが叫んだ。え? どういうことだろう。私、何かズルいことなんかしただろうか?
「カニを独り占めしようなんて、ずるいー」
「なんですか、鈴音はこの大きなカニを独り占めしようと画策していたのですか? 我が妹ながらなんと悪辣な……」
「ちょ……ちょっと姉さんまで!」
 姉の言葉を聞いて、先輩も妹さんまでもが口々に私のことを「ズルい女」と誹謗し始めた。な、なんで? 私一人で、こんな大きいの全部食べられるはずなんてないのに。タラバガニはテーブルの中央、とげとげのごっつい殻に包まれた体を鎮座させている。これまたとげとげに覆われた足は八本。もちろん足には包丁が入れられている。
 そもそも食べ放題なんだから、無くなればまた注文すればいいだけのことだと思うのだけど。私は困惑しながらも、手はしっかりとタラバガニの足の固い殻を剥いていた。いや、剥こうと悪戦苦闘していた。固くて、私の繊細な手では剥きにくいよ。ちょっとあまり品が良い食べ方とはいえないが、切り口の所に唇を付けて、中の白い繊維状の実を吸い出すことにする。
「よし。これで巫女娘が悪役と決まったな。では罰として、巫女娘は初恋の経験談を話せ」
 ぶっ! と思わず吹き出しかかってしまった。相変わらず先輩は唐突だ。
 要は、合コンというこの場を盛り上げるネタがあれば何でもいいわけだが、……まさか、このメンバーの中では極めて地味な私が祭り上げられるとは……インターネット上でのブログの炎上、なんていう現象も、こういうちょっとしたきっかけが原因なんだろうな、と他人事のように思ってしまった。……いや、今、現在、この瞬間、私にとって他人事じゃないんだけど。
「鈴音さん、早く、初恋初恋」
 悪ノリ大好きのユウさんが笑顔で火に油を注いだ。次いで妹さんも便乗した。
「私も興味深いです」
「鈴音の初恋相手か……どんな変なヤツだったんだろうな。僕もちょっと興味がわいてきたよ」
 け、蛍まで……
 周りから注目の視線を浴び、私は完全に四面楚歌状態だった。もうこうなったら仕方ないから正直に……
 ……って、正直になんて言えるはずがない。だって……初恋の人なんて、今、目の前にいるところで言えるわけなんかないじゃない。自分で自分のことを「どんな変なヤツだったんだろう」なんて言っているけど。確かに蛍は変なヤツだよ。
「えーと、わた……」
 緊張で、声が変にうわずった。小さく咳払いして。やり直し。ちなみに、今に至ってもまだ私はカニの足を未練がましく左手に持っていることに気付いたが、今更置くのもわざとらしいかもしれないので、そのまま持っていることにした。
「えっと、私の初恋は、……よ、幼稚園の時でした。同じたんぽぽぐみのたっくんでした」
 沈黙。無反応。冷たい視線。が五人から私の顔に集められる。な、なんでそんなに私を見つめるの? 顔が、耳が、まるでお酒を飲んだかのように火照った。五人中四人が女性とはいえ、ここまであからさまに注目されるとやはり恥ずかしいものだ。
 居酒屋の中は、ようやく客が増えてきたのか、賑わいが大きくなってきたようだ。あの男性店員も、さすがに仕事にかかりっきりになってきたのかもしれない。こっちに来なくなった。でも、そんな喧噪も耳に入らないほど、私はギリギリいっぱいいっぱいの精神状態だった。こ、こういうのをさらしものというのね……
「……あのな、巫女娘。初恋は幼稚園の時でしたネタが通用するのは、セクシーダイナマイツなグラビアアイドルくらいだぞ。お前は、自分が芸能人くらいの域に達していると思っているのか?」
「……」
 思っていません。特に、この場にいる女性メンバーは美女揃いで、私なんか孔雀の群の中に一羽だけ雀がいるようなものだ。
「バレバレの嘘を言うとは……まあいいだろう。この後王様ゲームもあるし、その中で巫女娘の偽りのベールを剥いで丸裸にしてやるからな」
 真儀瑠先輩が妙に力強く宣言した。まるで革命の後の人権宣言みたいだ。
 ……合コンのお約束と聞いてはいたけど、本当にやるのね、王様ゲーム。
 逃げられるとは思えない。だったら、王様ゲームが始まるまでに、美味しい物を食べて楽しんでおくしかない。王様ゲームでこうむるべきマイナスを想定して、先に料理で楽しんでプラスを蓄積しておけば、あわよくば今回合コンに参加した収支をプラスマイナスゼロに持ち込めるかもしれない。
 真儀瑠先輩が設定した食べ放題は、コース料理だけでなく、一品料理も注文できるという。ユウさんと傘さんは唐揚げ、枝豆、梅奴、揚げ出し豆腐、肉じゃが、などといった居酒屋メニューを次々と注文していた。本来は「この場所に存在していない」はずの二人が一番勢いよく食べている。これで四人分の料金しか払わないんだから、詐欺以外の何モノでもない。店にしてみれば真儀瑠先輩にかかわってしまったことこそが最大の失態だろう。でも同情はしないわ。同情している余裕なんて無いから。
 私も食べた。でも、ユウさんや妹さんのような大食ではない。それに、ユウさんと妹さんは霊であり、どんなに食べても太るわけじゃない。蛍の霊体物質化範囲から出てしまえば、たくさん食べた分もチャラ、ということになる。だけどちゃんと肉体のある人間の私はそうはいかない。食べ過ぎると太るかもしれない。
 でもそんなことを気にし過ぎていたら、今日のこの合コンという過酷な場は乗り切れないかもしれない。エネルギーをチャージしておくという意味でも、遠慮せずに食べた方がいいのかも。
 そういえばサラダもあったはず。野菜ならば、食べてもそんなに太る心配をしなくていいだろう、と思ってサラダの盛られたボウル皿を見たら、なんともう空っぽで、底の方にフレンチドレッシングの残りが、店の照明を反射しててかてかと光っているだけだった。
「あ、鈴音さんもサラダ食べたかったの? ごめんねー。私と蛍と傘とで全部食べちゃった。どうしても食べたいなら、別に注文してね」
 私はなんとなく蛍に対して怒りを感じてしまった。サラダを食べたのは蛍一人ではなくユウさんも妹さんもなんだけど。でも蛍だけに怒りを覚えたのだ。理不尽だとは思うけど、感情の奔流というのは集中豪雨で増水した川のようなもので、押しとどめるのは不可能なのだ。
 だから、別の方向にこの憤懣を炸裂させるしかなかった。
「先輩っ! チーズグラタンと焼きホッケとキムチサラダ注文してくださいっ!」
「……おい巫女娘。食べるのはいいが、後で太らないか心配しておいた方が……」
「余計なお世話ですっ!」
 叩きつけるように言って、それから、料理が来るまでの間すらももどかしくて、グラスに入ったウーロン茶をあおった。アルコールは入っていない普通のウーロン茶だけど、無理に一気のみはせず、息が苦しくなったところでグラスから唇を離した。
「はぁぁぁっ」
 ある程度予想して然るべきだったかもしれないが、このメンバーである。食べるだけでも修羅場だった。真儀瑠先輩は幹事としての仕事をきっちりこなしながらも、あっさりした白身魚のキスの天ぷらを食べている。蛍はというと「これはイイやり方だよなぁ。ユウにタダ飯食われても、懐が痛まないもんなぁ。お店には悪いけど……」とかぼやきながらも、自分が食べる方は遠慮していなかった。メンチカツを頬張り、オムライスを掻き込んでいる。
「あ、ユウずるい! タラバガニのその足、私が目をつけていたのに!」
「え、なんでずるいのさ。別にサンの名前が書いてあるわけじゃないでしょ」
「だってその足、鈴音さんが取ったやつを除けば、一番太いじゃない」
「そんなことないよ。傘が取ったやつだって、同じくらい太いでしょ」
「何よユウ、自分が足、太いからって」
「私は足太くないもん! 私が足太かったら、傘なんか桜島大根じゃん!」
「私は生まれも育ちも北海道なんだから! 桜島大根なんかじゃないんだから!」
 ……ユウさんと妹さんは些細なことで喧嘩を始めている。喧嘩するほど仲が良い、というのは、ああいう関係を言うんだろうな。
「おーい! 料理が遅いぞー! 早くしないとここにいる巫女娘が、空腹の怒りにまかせて、商売不調の呪いを始めてしまうぞー!」
 真儀瑠先輩が厨房の方に向かって料理を催促した。催促はいいんだけど……言い方を考えてほしい。それじゃ私が悪の権化たる呪いの堕巫女みたいじゃない。言いたい不満を押し戻すように、私は更にウーロン茶をあおったが、グラスはすぐ空になって出がらしだけが舌の裏を湿らすだけだった。
 私のウーロン茶、早くこないかしら!
 先輩にせかされたからか、店員さんが慌ただしく料理と飲物を運んで来る。例の若い男性店員ではなく、女性店員だった。私は出てきたウーロン茶をひったくるようにして、ぐいっと飲んだ。
 飲んで、むぐっと窒息したウサギのように唸った。
「これ、ウーロン茶じゃなくてウーロンハイだった……」
「あーっ! 神無さんが私のウーロンハイ、飲んじゃったぁー!」
「ご、ごめんなさい……」
 え、これって私が悪いの? という理不尽な思いはあったが、傘さんが泣きそうな声で私を非難するので、とりあえず謝っておいた。頭に血が昇る。急激な運動をした直後のように心臓が乱打する。血液に乗せて、体の隅々までアルコールを運んでいくのがリアルに感じられるようだ。ただでさえ肌が白い上に赤面症の私は、たぶんそのうち顔が真っ赤になってくるはずだ。……あるいはもう赤くなっているかもしれないけど。
「あ、この唐揚げ美味いな。……死にてぇ……」
 蛍はばくばく食べながら、死にたいとか言っている。いつもながら矛盾した人だ。食べる、なんてのは生の象徴的行為なのに。本気で死にたいんだったら、食べるのを我慢して飢え死にでもすればいいのに。あるいは食べるだけ食べて満足してから、他の死に方で死にたいということなのかもしれないが。……って、本当に死んでもらったら困るけど。
 姉の深螺はというと、通路側の真ん中の席ではあるけど、バカ騒ぎに巻き込まれることなく、静かに日本酒を飲んでいた。ほろ酔い加減というのか。頬が少し紅潮している。大きく開いた胸元からのぞく、首筋から鎖骨にかけてのラインも、少し赤らんでいるように見える。妹の私から見ても色っぽい。
 ふっっと、横を見ると、蛍の視線が、なんとなく姉に注がれている気がする。それも、大きく開いた胸元に釘付けになっているような気がする。……ま、まあ、思い過ごしだろう、錯覚だろう、そんなことはないだろう……いややっぱり蛍は姉さんの方を見ている。凝視している。ギラギラとしたケダモノのような目で見ている間違いなく胸元を見ている。しかも今日の姉さんは、意識的にバストアップしている勝負モードだ。
 なんか、いらいらする。
「ちょっと蛍! どこ見ているのよ! えっちな妄想とかしていないでしょうね!」
 気が付いたら私は、衝動的に叫んでいた。ああ、これはアルコールのせいだわ。理性の箍が弾け飛んで、私の心の中で飼っている嫉妬という名のドラゴンがかまくびをもたげたのだわ。
 蛍はびくっとして慌てて目をそらし、意味もなく天井の方を眺めた。
「え、なに、兄さん。もしかして妹の私がお酒を飲んで色っぽくほろ酔い加減なのを見て、欲情していたの?」
「妹を見て欲情する兄なんているはずないじゃん。蛍は、隣で密着している私が、お酒が入って体温が上がってあったかくなっているのを感じて、ドキドキしちゃっているんだよねー」
「でもユウの言い種だったら、兄さんはどこも見ていないでしょ。おかしいよ」
 池に小さな石を一つ投下しただけで、いくつもの波紋ができて次々と広がって行くように、投げかけた小さな言葉も、帰宅部合コンというこの場ではものすごく大きく膨らんで大騒動だ。
「式見蛍、あなた今、私の胸を見ていましたね。それもかなり本能と煩悩と性欲にまみれたいかがわしい目で。あなたもやはり男なので、バストアップしたボリュームのある胸が好きなのですか?」
 姉の台詞に、一瞬場が静まりかえった。
 次の瞬間、ユウさんが、妹さんが、そして真儀瑠先輩までもが、何やらわめき出した。同時に喋っているから、どちらが何を言っているのか判然としないけど、非難囂々なのは間違いない。というか、人の台詞を解析している余裕なんて私には無い。だって、私も一緒になってほとんど支離滅裂な文句を蛍に浴びせかけていたから。
「なになにどういうことなの蛍信じられない蛍って姉さんに気があったの信じられないしかも胸を見ていただなんてそういうのってすっごく最低不潔そういう人って私大嫌いもしかして蛍って私のこともそういうエッチな目でみているのいやだ信じられない」
「……いや、鈴音のことはえっちな目では見てないよ。見るわけないじゃん」
 四人の女性から容赦ない言葉の空爆を受けている蛍だったが、本人は割と冷静というか、四人の言っていることをそれなりに把握できているらしい。いっぺんに十人の言うことを理解できたという聖徳太子の縮小版みたいだわ、と思って感心している場合じゃないような気がする。
 ……なんか、私だけには全く興味が無い、というか、女性として魅力が皆無、みたいな趣旨のことを言っていなかった? そりゃ、エッチな目でジロジロ見られるのは気持ち悪くて不潔で嫌だけど、なんというか、こう、女性としての魅力を感じてくれないというのも、ちょっと寂しい。いやかなり悲しい。それでいて、美人の姉さんの魅力にはメロメロだったりするの?
 ショックのあまり私は黙ってしまったが、他の三人はまだ蛍を責めている。この三人、確実にSだわ。そして問題発言を投下した張本人たる姉さんはというと、まるで波紋を呼ぶ発言なんか無かったかの如く、静かに日本酒を嗜んでいる。やはり大人物というか……でも考えようによっては、一見静かに合コンの時を過ごしている姉こそが、このバカ騒ぎの仕掛け人なのであって、一番合コンの騒ぎに寄与しているのは姉の神無深螺なのだろう。私もはっちゃけた方がいいのだろうか。
 こういう時は、ヤケ酒というのだろうか。とにかく飲むしかない。居酒屋へ行って会社の上司のグチをネチネチと言ってネクタイを額に巻いてくだを巻いている中年のお父さんの気持ちが、今なら少し分かるような気がするわ。
 間違えて飲んでしまったウーロンハイを、ぐびぐびと一気に飲み干した。確かにアルコールのきゅぅぅっという鼻に抜けるような感覚はあるが、味そのものはほとんどウーロン茶の素の苦みと渋みだけだ。普通においしく飲めるものだ。体がぽっぽっぽっぽっとする。いい気分かもしれない。
「あー、先輩ー、ウーロンハイー、お代わりお願いしますー」
 私は真っ正面の席に座る真儀瑠先輩に向かって言ったのだが、肝心の幹事の先輩は、私のことなど眼中に無いようだ。ユウさんと妹さんと一緒になって、まだ蛍に文句を浴びせるのが忙しいらしい。食べる箸さえ止まっているくらいだ。私の声は届いていない模様。
「真儀瑠先輩! ウーロンハイ、お代わりお願いしますっ!」
 こっちもヤケだ。お酒が入っているので勢いもある。先輩に対して、強い口調で要求した。でも先輩は私の方に目を向けようとはせず、蛍の方に顔を向けたままだった。ただ一言、
「自分で勝手に頼め」
 とだけ言った。長い黒髪を振り乱し、先輩は結構興奮しているようだ。お酒が入っているから、なのかな?
 でも先輩の言うことももっともだ。お酒を飲んでしまったとはいえ、私はまだ酔ってはいない。冷静な自分は脳内に健在だ。どうせ食べ飲み放題なのだし、幹事さんを通さなくても、自由に自分の好きなものを注文すればいい。
「すいませーん!」
 大声で呼んだら、あの若い男性店員が来た。店が忙しくなってきたせいか、顔に余裕が無くなっている気がする。でも、美女揃いのグループに呼ばれたからか、営業スマイルではない素の笑顔が浮かんでいた。
「ウーロンハイ一つお願いします」
 注文を言ったのが私であり、先輩も姉さんも店員の方を一顧だにしなかったためか、店員さんは急に疲れたような表情で戻って行った。……なにもあからさまにそんなに落胆することないじゃないのよ……
 でもその店員さん、ウーロンハイ一つだけをお盆に載せて、すぐに来てくれた。グラスの氷が茶色い液体の中で浮かんでカラカラ揺れている。お客さんが増えたためだろうか。熱気で空気が密度を増したようだ。ここは禁煙席だけど、喫煙席のタバコの煙の先端がここまで漂ってくるのか、少し視界が紫がかって、苦いような臭いがほんの微かに漂う。蛍はタバコの煙が大嫌いだから、機嫌を悪くしなければいいけど。
 ……発想を転換しよう。みんな、蛍をイヂメるのに忙しくて、食べる方がおろそかになっている。姉さんだけはマイペースを保っているけど、そんなに大食いをしてはいない。つまり、この隙にいい物を食べればいいのだ。私、頭いい。お酒が入って、寧ろ頭脳明晰になって冴えているんじゃないかしら。
 さっき頼んだチーズグラタンと焼きホッケとキムチサラダを、独り占めしてしまう。うん、なかなか美味しい。
「あっ、巫女娘。さりげなく料理を独り占めしようという魂胆だな。なんという卑怯な!」
 うわ。正面に座る真儀瑠先輩に気付かれちゃった。しかも何故か卑怯呼ばわりまでされちゃった。つくづく私って、損だわ。
 先輩の一言に、ユウさんも妹さんも、蛍を責めている場合ではないと気付いたようだ。そう。蛍に文句を浴びせるのは、ここではなくてもいつでもできる。でも食べ放題飲み放題は今ここでの限定された話だ。食べる方こそが優先だと思い直したのだろう。三人の女性の食べるペースが上がった。対抗心を燃やしたわけではあるまいが、食べなければやはり勿体ないという損得計算は働いたのであろう、蛍も一生懸命食べ出す。相変わらずマイペースなのは姉さんだけだ。でも姉さんだって食べていないわけじゃない。いつも以上には食べている。姉は小食そうに見えて、朝からご飯を三杯もお代わりすることすらもあるのだ。
 はっきり言って、合コンというより食うか食われるかの戦場だ。
 姉とは違って日頃から小食である私は、色々食べて、挙げ句にお酒も飲んで、結構胃が膨れてきたようだ。
 お店もお客さんが更に増えて、活気が増してきた。「かんぱーい」という音頭と共にグラスを合わせる音が響く。料理と飲物を注文する声が交錯する。小上がり席ではOLだろうか、グレーのスーツ姿の若い女性が、立ち上がってビールジョッキをの中身を飲み干している。
 そして帰宅部合コンも、空腹が満ちて次なる欲求段階に入っていった。
「よーし。この辺で合コンの王道、王様ゲームをやるぞ」
 わざわざ席から立ち上がって、真儀瑠先輩は高らかに宣言した。合衆国大統領の所信表明演説より朗々としているかも。
「でも先輩が企画したにしては、王様ゲームというのは、合コンとしてはありきたりですね。意外です」
 蛍の意見はもっともだったが、……そこで真儀瑠先輩はいつものあの「ニヤリ」という笑みを浮かべた。事情を知らない男なら一発で落ちてしまいそうだが、事情を知る帰宅部メンバーは、この一瞬で肝を冷やしたはずだ。
「甘い、甘いぞ黒一点式見蛍クン。この偉大な帰宅部部長真儀瑠紗鳥とあろう者が、その辺の発情男女でさえできるような普通の王様ゲームをやるわけがないではないか」
 ごくり。と、蛍が固唾を呑む音が聞こえたような気がした。いやもしかしたら、それは私が立てた音かもしれなかった。小上がり席の方から拍手喝采が聞こえて来た。
「これからやるのは、『女王様ゲーム』だ!」
「……じょ、女王様ゲーム?」
「それのどこが、王様ゲームと違うのでしょうか?」
 私と蛍は疑問を呈したが、ユウさんと傘さんは女王様ゲームと聞いて喜んで盛り上がっている。あの二人は盛り上がって騒ぐことができればなんでもいいらしい。姉だけは、無表情で日本酒を飲んでいる。……顔色は、ほんの少し赤くなっているだけなんだが、さっきからかなり飲んでいないだろうか。大丈夫だろうか。
「ルールを説明しよう。基本は王様ゲームと同じだ。割り箸で作ったクジを全員で引く。六本のクジには、一から五までの番号と、女王様と書かれた当たりクジがある。女王様のクジを引いた者は、何でも好きな命令を出すことができる。が……」
 先輩はここで言葉を切ってタメを作った。何か、この後嫌なことを言い出しそうな予感がぷんぷんする。
「何でも好きな命令を出すことができるが……」
 もう一度言った。CM明けですか?
「その代わり、女王様は服を一枚脱がなければならない!」
 なぜかぐっと拳を握り締めて、真儀瑠先輩は力強く言った。先輩の黒い瞳は爛々と輝いている。
 それを聞いた私は、こめかみから一筋の冷たいものが頬を伝って落ちて行くのを感じた。冷や汗、というよりは冷や汁といったところだ。うん、蝦蟇の油よりも濃くてエグいモノが出たような気がするわ。
「とはいえ、居酒屋ですっぽんぽんになりたくない、という人もいるだろう。そういう人のためには、これが用意してある」
 言って真儀瑠先輩はテーブルの下に置いてあったらしい紙袋を、全員に見えるように高く掲げた。
「もうこれ以上服を脱ぎたくない、という人は、トイレへ行ってこのボンデージファッションに着替えてきてもらう。いわゆるSMの女王様ルック、だ」
 黒髪の美女は袋の中身を取り出し、テーブルの空いたスペースに並べ始めた。漆黒のレザーレオタード。蝶覆面。そして皮の鞭。更にはあろうことかロウソクまである。
 ――ぬ、脱ぐのも嫌だけど、これを着るのも嫌だわ……
「ちゃんと人数分あるし、サイズも合わせてあるから心配するな」
 いつの間に各人のサイズなんか調べたのだろう。まあ、また例によって好からぬツテを使ったに違いない。この先輩の前では個人情報なんてのは蜃気楼に等しい。
「つべこべ言わずに始めるぞ! 女王様になったら、何でも好きな命令を出せるんだからな。本来は喜ぶべきところだぞ」
「なるほど。分かりました。楽しそうですね」
 誰もがあっけにとられて言葉を失っていた中で、一人だけ先輩の悪ノリに同意した非常識人がいた。……恥ずかしながら、私の姉だった……
「ちょっと姉さ……」
「よし。巫女娘のお姉さんからも賛同をいただけたし、さっさと始めるぞ。こういうのはノリが大事だ。後輩、沈んだ表情をするのは禁止だ。もしかしたら、美女ぞろいのこのメンバーの誰かとキスしたり、胸を揉んだりすることなんかもできちゃうかもしれないんだぞ!」
 真儀瑠先輩はニヤリと笑いながら蛍を唆す。確かに王様ゲームでは、盛り上がってきたら、「一番と五番がキスをする」なんて命令が出てくるのも定番だ。
「……なんかちょっと引っかかるんですけど、先輩の決めたことに逆らうわけにはいきませんし、やるならさっさとやりましょう! おー!」
 蛍が妙に元気なかけ声と共に右手の拳を天に突き上げた。仕方なく空元気を出した、というようにも見えるが、黒一点として先輩が吹き込んだようなえっちな展開になることも期待しているのかもしれない。……蛍、不潔だわ。今度小一時間くらい正座させて説教しなくっちゃ。
「さあみんな、クジを引け」
 先輩が割り箸で作ったクジを出した。さすがに用意周到である。私も含めて五人が引き、先輩は最後に残った一本を取る。
 私はそっと、右手に持った自分の割り箸に書かれた番号を見た。「2」とアラビア数字で書いてあった。良かった、女王様じゃなくて。肩の力がほっと抜けた。溜息を一つつき、左手で髪のリボンを軽く撫でた。
「お、最初の女王様は私だな」
 残り物が当たっていた真儀瑠先輩は、「女王様」とマジックペンで書かれている割り箸をみんなに見せてから、羽織っていたカーディガンを脱いだ。
「さあ、一枚脱いだぞ。何を命令しようかな……」
 あれ、なんか釈然としないものを感じる。先輩、それだけで一枚脱いだことになるの?
 と、ここにきてようやくというか、遅すぎな感じもするが、着ている服の枚数で有利不利が変わることに思い至った。
 先輩は合コンが始まってから今に至るまで、ずっとカーディガンを脱がなかった。その理由がはじめて分かった。そして、私が着ているのはワンピースである。これを脱いでしまえば、もうそのまんま勝負下着のブラジャーとショーツである。つまり、一回女王様クジを引いちゃっただけで、私の場合はチェックメイトなのだ。顔の血がザザザっと音を立てて、全て首の下に引いたような感覚がした。もちろん脱ぐのを拒否することはできるが、その場合はボンデージ女王様ルックに着替えなければならない。それも恥ずかしくて絶対嫌だし……
「そうだな。一番のクジを引いた者が、椅子の上に立って、尻文字で「稲荷一丁お待ち」と書いてもらおう。ひらがなでな」
 真儀瑠女王様の命令が出たので、私は慌てて自分の割り箸を確認した。「2」。あ、そうだった。二番だったんだ。私じゃなかったんだった。尻文字も恥ずかしいし、二番を氏名されなくて良かった。
 この女王様ゲームのクジ引き、私にとっては絶対にハズレが許されないわ!
「わー! 傘だ! 傘が当たったー!」
 ユウさんの叫び声が聞こえた。「1」の割り箸を握り締めて、妹さんは顔を赤らめて俯き加減だ。
「サンー! やれやれ! いなり、いなり!」
 ユウさんが一人で興奮してはやし立てる。妹さんは、顔に決意を滲ませて、靴を脱いで椅子の上に立ち上がった。酒の勢いもあって開き直ったのだろう。そして、彼女の真向かいの方にお尻を突き出して、「い・な・り・い・つ・ち・よ・う・お・ま・ち」と宙に描いた。……言うまでもなく、妹さんの向かいの席は、彼女の兄の式見蛍である。
「サン、やったぁ!」
 大笑いしながら、ユウさんが拍手する。便乗して姉さんも拍手。仕方なく、という感じで蛍も拍手を始めた。こんな恥ずかしいことを本当に大胆にやっちゃった妹さんの勇気には確かに感服したので、私も拍手した。椅子に座り直した妹さんも、照れ笑いを浮かべながら自分で拍手している。
「……つまらん」
 私の正面で、真儀瑠先輩が悄然と呟いた。……はっ、そうだ。これは先輩自身の落ち度でもあると思うけど……先輩は霊を見ることができない。つまり、浮遊霊であるユウさんと、生き霊である妹さんの姿は全く見えない。透明人間みたいなものだ。透明人間が尻文字をやったって、先輩には何も見えない。これで面白いはずがない。
「次からは、ユウか傘ちゃんが何かすることになった場合、私にも見えるように、……そうだな、とりあえず私のこのカーディガンを羽織れ。他にも、その内どんどん脱いだ服が出てくるから、それを体に着けて、私でも動きが見えるようにするんだ。いいな」
 先輩は一方的に宣言した。「そんな話は聞いていない」などとユウさんと妹さんが抗議するが、先輩は耳を貸さない。というか、ユウさんと妹さんがどんなに大声で叫んだところで、通訳しなければ霊能力の無い真儀瑠先輩には届かないのだ。
 とにかく第一回目から大荒れだったけど、第二回目の女王様ゲームのクジ引きが始まった。お願いだから、女王様クジだけは来ないで……!
 ……ほっ……「4」だった。
 心臓がドキドキしている。気が付いたら肩で小刻みに息をしている。端から見たらアブナイ人かもしれないわ、今の私……
 王様は誰だったんだろう。あ、女王様か……
「僕が女王様当たったんですけど……」
 おそるおそる上申する、といった風情で割り箸を見せたのは、蛍だった。男なのに女王様とは、これいかに。
「よし、後輩。それでは早速一枚脱げ」
 いつも通り、帰宅部部長は帰宅部後輩に対しては高圧的で横柄だった。蛍も先輩に逆らうことがいかに無駄であるか熟知しているからであろう。ボタンを外して長袖のシャツを脱いだ。その下には薄いブルーの半袖Tシャツを着ていたので、いきなり上半身裸にはならなかった。
 ……って、別に蛍の上半身裸を見たかったわけじゃないんだからね。勘違いしないでよね。……って、誰に言っているんだろう、私。
「じゃあ後輩。さっさと命令を出せ」
「うーん……」
 蛍は半袖の腕で自分の胸を抱きしめるように腕を組んだ。そして沈思黙考しはじめた。
「何にすればいいんだろう。悩むなあ」
 蛍は眉をハの字に曲げて、結構真剣に悩んでいる。それもそうだろう。迂闊な命令を出せば、後で逆恨みされるかもしれないし。
「後輩の優柔不断は相変わらずだな。女王様ゲームだからといってそんなに悩むこともないだろう。普通の王様ゲームの定番命令でいいんだ。キスだとか」
「あー。じゃあ、キスにします。ええと、二番の人と四番の人がキスをする。……これでいいですか?」
 このメンバーの合コンなんだから、波風無しで終わるはずがないとは思っていたけど、二回戦からもうキスというのは、早いようにも思えるが……
 ん? 二番と四番?
 わ、私が四番だった! だ、誰とキスするんだろう? まさか、け、蛍だったりしたら……
「二番は私ですね」
 静かに申し出たのは私の姉深螺だった。……私ったら、冷静さを失っていたわ。蛍が女王様になってキスの命令を出したんだから、蛍が番号のクジを持っているはずなんて最初から無いんだから。でもちょっと焦っちゃった。……でもなんか、蛍じゃなかったってことで、ちょっと残念な気持ちもあるような……だってほら、蛍はこのメンバーで黒一点なんだから。女同士でキスしたってゲームとしてあまり意味無いし。男と女がキスしちゃう可能性があるからこそ、王様ゲームというのが存在するんだろうし。
 いや。あまり意味無いとは言ったけど、今の私にとっては意味のあるシチュエーションだ。私、キスなんて初めてなのに。それが女同士で。しかもしかも実の姉である神無深螺とだなんて。
 恥ずかしい気持ちと困惑する気持ちと顔から火を噴きそうな気持ちと理不尽さに怒る気持ちと、あと十六種類くらいの雑多な気持ちがぐるぐると渦を巻きながら胸の中で暴れ回っている。
 姉さんとキス……
 そうよ、こんなこと、気にする必要なんか無いんだわ。女同士なんだから、ファーストキスとしてはノーカウントよ。人工呼吸みたいなものなんだから。気にしちゃだめなんだからね、神無鈴音。
「さあ、鈴音。私たちは姉妹であるにもかかわらず熱いベーゼを交わさなければならないようですから、早く済ませましょう」
 姉は立ち上がって、長い白い髪を軽く肩の後ろに払った。その仕草は、同性でありかつ血のつながった妹である私から見てもゾクッとするほどに色っぽく美しかった。な、なにを女にときめいているのよ、私。
 私も、おずおずとではあるけど椅子から立ち上がった。膝が、臆病な私の精神を嘲笑っているかのように震えている。蛍が、ユウさんが、真儀瑠先輩が、妹さんが、そしてキスの相手である姉が、立ち上がる私を注目している。もうこうなったら、失うモノなんて無い。女王様が当たってボンデージファッションに着替えるよりは数百倍ましだと考えて開き直りに走るしかないわ。お酒だって飲んで、テンションがハイになって勢いもついているから、そのまんまガーッとやっちゃえばいいのよ。
 私達神無姉妹は、テーブルを挟んで顔を寄せ合い、そのまんまの勢いで唇を合わせた。甘美なやわらかい感触が、私の身体の敏感な部分に押しつけられる。でも、それは永遠のような一瞬。
 離れた。ユウさんがヒューヒューと甲高い声ではやしたてていて、妹さんはキャーと悲鳴を挙げている。姉の顔が、すぐ近くにあった。肉親であっても、逆に肉親だからこそ、恥ずかしくて直視できない。姉も恥ずかしかったのだろうか。日本酒のせい以上に顔が赤らんでいるように一瞬感じた。私はふりほどくように視線をあさっての方向に逸らし、椅子に座り込んで、照れくささを誤魔化して口直しをするかのようにウーロン茶を飲んだ。魂に火がつくような感覚が舌と喉を灼く。そうだった。これはただのウーロン茶じゃなくてウーロンハイだった。
 変則的なファーストキスの余韻に浸っている時間はゆるされなかった。すぐに真儀瑠先輩が全員の割り箸クジを回収し、三回戦が始まった。一発ヤバいクジを引いちゃっただけで私は終わるのだから、この瞬間はドキドキだ。お酒を飲んだから心拍数が上がっているというのを差し引いても、心臓が働きすぎだ。反動で明日あたりストライキを起こさなければいいけど。
 自分のクジの番号を確かめる前に、妹さんの声が上がった。
「あ、私が女王様です! 当たり当たり!」
 溜息と共に僧帽筋の力が抜けて乳酸が残る。「これって、何でも命令できるんですよねー。何にしようかな? どうせだからすごくえっちなことにしちゃおうかなぁ。さっき私、すごく恥ずかしいことさせられたし。……じゃあ五番の人が四番の人の胸を揉む! ……って、ああ、言っちゃった。もし兄さんが私の胸を揉むことになったらどうしよう……」
 なんとなく、妹さんは見当はずれな恥ずかしがり方をしているような気もしないではない。だけど、そんなことより私はまだ自分の割り箸の番号すら確認していないのだ。居酒屋内の喧噪すらよそよそしく聞こえる緊張感の中で、自分の割り箸に書かれた数字を見た。
 セーフだわ。「1」だった。
「げっ! 僕が当たっている……」
 私の隣の隣の席から、蛍のうめき声が聞こえた。蛍は頭を抱えている。
「って、あれっ? よくよく考えてみれば、エッチな命令を出しても、兄さんが私にえっちなことをする可能性って、絶対ゼロなんだ……」
 傘さんが残念そうな表情を浮かべていた。気付くのが遅すぎという説もある。
 みんなは自分の割り箸に書かれた番号を確認し、無反応である。私も一番なんだから、名乗り出ることはもちろん無い。
 あれ? 該当者が誰もいない?
 そんなはずはない。
 私達五人の視線が、幹事にして帰宅部長の美女の方へ向いた。
「な、なんだ? 傘ちゃんはどんな命令を出したんだ? 私と後輩が何かするのか?」
 このメンバーで一人だけ、妹さんの声を直接聞くことができない真儀瑠先輩は、自分が該当者だと気付いていなかったようだ。
「む、胸揉み……」
 私は唖然として口の中で小さく呟いた。先輩はそれを聞き逃しはしなかった。
「そうかそうか! 後輩が私の胸を揉むのか! ふふふふふふふふふ……」
 先輩の笑い声が不気味だった。完全に特撮テレビ番組に登場する悪の女帝って感じだ。
「だ、だめよ! だめよ! だめよ! こんなの不潔だわ!」
 立ち上がって、思わず私は叫んでいた。
 ユウさんも身を乗り出して、真儀瑠先輩に対して思いとどまるように説得していた。でも先輩はユウさんの姿も見えなければ声も聞こえない。ユウさんは説得が無駄と悟り、いまだ頭を抱えている蛍の方へ向き直った。
「ケイ! こんなのダメだよぅ。ケイも拒否してよ!」
「そうだよ兄さん! 断固拒否だって!」
 女王様として命令を出したはずの妹さんまでもが、頬をピンクに染めて目をいからせて怒鳴っている。
「ユウさんも妹さんも、やめるべきだと言っています。先輩、ここは思いとどまってください」
 私は真っ正面から先輩を凝視した。しかし先輩は余裕の笑みを浮かべるだけだった。
「巫女娘もユウも傘ちゃんも、残念だけどやめるわけにはいかないな。女王様の命令は絶対だ」
「妹さんが、『撤回、撤回、撤回!』と叫んでいます」
「一度出した命令の撤回など認めたら、王様ゲームも女王様ゲームも成り立たないだろう。さあ後輩、喜べ! さっさと揉め!」
 先輩は座ったまま、蛍の座っている対角の方に胸を突き出した。カーディガンを脱いだ先輩は、スタイルの良いきれいなバストラインを見せつけるような、Vネックにレースをあしらった、可愛らしさと上品さが同居した服を着ている。
「後輩よ、聞いて驚け。私の着ているこの服は、普通の服ではないんだぞ。なんと……授乳服なのだ!」
 じゅにゅうふく? 一瞬言葉の意味を理解できなかった。未婚で、さっき姉妹同士で最悪のファーストキスを済ませたばかりの私には、いまだ縁の無さそうなアイテム名だったからだ。
「いいか後輩。授乳服というのは、赤ん坊に母乳を与えるのに便利な構造になっている服だぞ。ほら、ここの裏にあるボタンを外してぺらっとめくれば、その下はすぐにフロントホックのブラだ。後輩も、どうせ揉むなら服の上からよりは生の方が嬉しいだろ?」
 な、なんちゅう非常識な服をきているのよ先輩は! と思った。先輩だって未婚だし、凄い美人の割には恋愛関係にも疎いから、授乳服なんてまだまだ先の話でしょうに。
「ケイ、絶対ダメ! 断って!」
「そうだよ兄さん! 服の上からでも言語道断なのに、生なんて、考えられない!」
 霊の二人は、真儀瑠先輩への説得を無理と諦め、蛍の方への説得を試みている。説得というより脅迫という勢いだけど。
 姉の深螺は、いいともダメとも言わずに事態を静観している。私はというと、真儀瑠先輩に呆れた視線を送っていた。本当に、この人は何を考えているのだか分からない。帰宅部、なんて謎な部活をやっている時点でもう特大の変人ではあるんだけど。もちろん、優柔不断で女性に甘い蛍とはいえ、こんな無体な命令は拒否するに決まっている。私はこう見えて、最後の一線では蛍を信頼しているのだ。
「分かりました。女王様の命令は絶対なんですから、やりましょう」
 蛍を信頼してい……今なんて言ったかしら?
「えええええええっ! ケイ、野獣だぁぁぁっ!」
「に、兄さんが真儀瑠さんの色香に惑わされておかしくなったよぉぉ……うぇぇぇぇん……」
「ちょっと蛍! それってどういうこと! 不潔すぎるにもほどがあるわよっ!」
「式見蛍、やはりあなたも男なのですね。頭の中には性欲が渦巻いていて、チャンスがあれば女の胸を揉みたい、と……」
 さっきまで静かだった姉までもが蛍を責める。霊二人と巫女二人の集中砲火を浴びた蛍だが、意外にも毅然とした態度で割り箸を出した。
「やりますよ。傘は『五番の人が四番の人の胸を揉む』と言っていましたよね。僕、四番ですから」
 確かに蛍が差し出した割り箸には「4」と書かれている。
 あれ?
 真儀瑠先輩の方は、確かに「5」の割り箸を持っていた。
 つまり、真儀瑠先輩が、蛍の胸を揉む。……ってことだったんだ。私たち、早とちりして、大騒ぎしちゃっただけだったんだ……
 事実を正しく認識して、霊二人と巫女二人は舌鋒を収めた。それどころかユウさんと女王様の妹さんは「早く揉めー!」と催促している。
 一人だけ、真儀瑠先輩は一瞬狐につままれたような表情をし、少し顔を伏せて小さく「ちっ……」と舌打ちしていた。そんなに蛍に自分の胸を揉まれたかったのだろうか。……いやでもこの先輩のことだからありうる。わざわざ授乳服なんて着てくるくらいなんだから、しかもフロントホックのブラを着けているとも言っていたから、明らかに想定していたはずだ。
 結局、真儀瑠先輩は面白くなさそうな表情のまま、テーブル越しに蛍の胸を大雑把に揉んだ。もちろんTシャツの上からだ。
 平穏無事に終わったけど、しらけた空気が漂ったのは事実だった。
「こうなったら誰かを脱がしてギブアップさせて、女王様ボンデージルックにさせるしかないな。四回戦、行くぞ!」
 先輩が割り箸を回収していると、その先輩の背後から忍び寄ってきた影があった。
「あのう……」
「ん? なんだ? 飲物でも頼んでいたか?」
 先輩は振り向きもせずに、若い男性店員に返答する。お前など相手にしている場合じゃないんだ、という態度がありありと見えた。常に周囲に気配りを怠らない先輩にしては珍しい態度だ。よほど今の、胸揉みが空振りに終わったのが悔しかったのだろうか。
「あのー。俺、さっきからずっとこの席のみなさんの様子を見ていたんですけど……」
 なにそれ? ストーカーまがい? ……といっても、彼が興味があるのは私ではなく、真儀瑠先輩と姉さんなんだろうけど。
「なんか、空席の所に、透明人間いません? さっきから、空席の所で料理と飲物が消費されているような気がして、気になって気になって仕方なかったんですけど……」
 ぎくうぅぅぅっ!
 霊視能力の無い一般人からすれば、この席で起きている事象はまさにオカルト現象だろう。見えないユウさんと妹さんが、一番飲んで食べているのだから。私が焦って冷や汗を流していると、先輩が億劫そうに振り向いて、店員に対して諭すように語り始めた。
「透明人間の手品なんだよ」
「は? 手品?」
「そうだ。私はマギー紗鳥というマジシャンなのだ。種も仕掛けも無いんだよ。……ユウ、ウーロンハイを飲め。傘ちゃんはイカ刺しを食べてみろ」
 先輩のごまかし方針を悟ったのか、霊の二人は素直に命令に従った。ユウさんは妹さんの飲んでいたウーロンハイをひったくって飲む。妹さんはちょっと不満そうな顔をしたけど、気を取り直して大皿からイカ刺しを取り、わさび入りしょうゆに浸して、食べた。
 霊が見えない男性店員の目には、ウーロンハイのグラスが宙に浮いて、傾いたと思ったら中身が虚空に飲み込まれていく、割り箸が宙を動いてイカ刺しを取り、しょうゆを付けて虚空が食べてしまった、というふうに見えるはずだ。
「どうだ!」
 真儀瑠先輩が授乳服の胸を張った。……いや、別に先輩の手品じゃないんですけどね。
 若い男性店員は本当に驚いたのだろう。両目と口と鼻の穴二つを最大限に開いていた。
「さあ、納得できたらさっさと仕事に戻れ。客も入って忙しいのだろう」
 先輩の言う通り、居酒屋内は盛況だった。店員たちは忙しく行き来して注文と料理とを交互に運ぶ。タバコの煙が少し濃くなったような気がする。厨房からは威勢がいいのか単なる罵声なのか分からないけど大声が挙がっている。若い男性店員も、先輩や姉にみとれている暇は無いはずだし、透明人間の仕掛けを見破ろうと目を凝らしている場合でもないはずだ。
 それでもまだ気になるのだろう、何回か振り返りながら、男性店員は去っていった。ふと小上がり席の方を見てみると、さきほど一気飲みをしていたOLさんが口から涎を垂らして爆睡していた。
「せ、先輩。これ以上長居すると、あの店員さんだけじゃなく、他の人にもユウさんと妹さんが疑われちゃいますよ?」
「むむ……」
 女王様ゲームの割り箸クジを持ったまま、真儀瑠先輩は形の良い眉をしかめた。
 こういう席では姉さんが結界を張って、周りの人とこの席とを隔離してくれれば良いのだが……でも居酒屋というのは、周囲の喧噪も含めての雰囲気が大切だ。多少タバコのケムリが漂ったとしても、周囲の空気を隔絶してしまっては、合コンの楽しみも半減だ。六人のメンバーだけで飲むのなら、わざわざ居酒屋に来なくても、蛍のアパートででもパーティーをすればいいんだから。
「仕方ないな。もうみんな充分に食べて飲んで満足したか?」
 全員が肯定した。四人分の料金で六人が満足の飲み食い。店にとっては手品のせいだけど、このテーブルの収支はマイナスのはず。ご愁傷様でした。

「では最後に……」
 先輩はテーブルの下から真四角の紙箱を取り出した。上の面にはぎりぎり手が入るくらいの円い穴が空いている。
「クジ引きだ。今回参加した女子選手五名の中で、誰が後輩にお持ち帰りされるかを決めるクジだ」
「て、ちょっと待ってくださいよ先輩!」
 一番最初に抗議したのは、クジ引きの権利が無い唯一の男子選手だった。
「なんなんですかそれ。僕の意思は無視して、クジが当たった誰かを、必ずお持ち帰りしなくちゃいけないんですか?」
「そうだ。まさか文句はあるまい」
「ありますよ。文句大ありですよ」
「じゃあどうするというのだ? クジで決めた人をテイクアウトするのが嫌なら、式見蛍クンが自ら好みの人を一名指名してもいいんだぞ。……もっとも、そんなことをしたら選ばれなかった人から恨みを買うこと間違いなしだぞ」
「うっ……」
 蛍が言葉に詰まった。優柔不断な蛍では、この中から誰か一人を選ぶなんて能動的な行動はできないでしょうね。……もし、その時に選ばれなかったら、なんか悲しいし。……べ、別にお持ち帰りされたいわけじゃないんだけどね。
「だから、クジで決めるんだ。これならば誰も文句を言うまい」
 文句は言わないし、言えないだろうけど、不満は残るでしょうね。そもそも、どうしてわざわざ、お持ち帰りの人を決めなくちゃいけないんだろう? 普通の合コンだって、気が合う人がいなければ、そのままお開きになるもんじゃないのだろうか。
「甘いな、巫女娘。合コンであるからには、最大の醍醐味であるテイクアウトが無ければ、意味がないしイベントとして面白くないではないか。だから、クジ引きをしてでも、無理矢理必ず一名お持ち帰りにするのだ!」
 こ、心を読まれた? 私、何も喋っていなかったのに、心中で考えたことを先輩にピンポイントで当てられてしまった。……やっぱり先輩は、霊視能力は無くてもタダモノじゃないわ。さすが帰宅部部長。
「さあ、巫女娘からクジを引け。折りたたまれた紙が入っているが、すぐに開いたらダメだぞ。五人全員引き終わってから、一斉に開くんだ、いいな」
 ダンボールとガムテープで作ったらしい箱が私に渡された。
 酔いが、一気にさめていく気がする。
 このクジ、重要である。さっきの女王様ゲームなどよりも重要かも。私が蛍にお持ち帰りされるか、あるいは他の誰かが蛍にお持ち帰りされるか。運命の分かれ道。ベートーヴェンが扉を叩く。
 こういう時は、迷わないのが一番いいと思う。直感で、箱の中に入れた私の右手が、一番最初に触れた紙を選ぶのがいい。
 たぶんコピー用紙だと思われる紙の感触を、人差し指と中指で挟み、目を固く瞑って箱から出した。ふうう、と、今まで止まっていた息を大きく吐き出した。
「次はユウだぞ」
 ダンボール箱を隣のユウさんに渡すと、ユウさんは迷いもせずに手をいれて、すぐに一枚を引き出した。クジは、コピー用紙を正方形に切って、対角を合わせる形で二回折ってできた三角形だ。顔の表情はいつも通りの楽しそうな笑顔で、にはこれといった変化は無かった。ユウさんは緊張しないのだろうか。私には不思議だった。
「次、傘ちゃん」
 妹さんの顔は、メデューサに睨まれて石になってしまったかのごとく固い表情だった。気持ちの揺らぎで迷っているのか、箱の中に手をいれて、あちらこちらとまさぐっているらしい。
「うーん、これにしようかな……いややっぱりこれはハズレっぽいからやめよう……」
 妹さんはこのクジに対して並々ならぬ思いを抱く理由でもあるのだろうか。随分時間をかけて慎重に選んでいる。
「きさまのワザは見切った!」
 妹さんは少年漫画の台詞みたいなことを叫んで、一枚を引き抜いた。
「なんだ傘ちゃん随分時間かかったな。……次は巫女娘のお姉さんだ」
 ダンボール箱が回された姉は、優雅な仕草で右手の袖を左手で軽く押さえ、穴に手を入れようとする。
「ちょっと待った!」
 先輩が叫び、姉の深螺は箱に入れようとしていた白い手を止めた。
「お姉さん、あんた、透視能力みたいなのを使って不正などしないよな?」
 姉の能力を考えれば、先輩の疑いはごもっともだ。でも、疑われてはさすがに姉もいい気分はしないだろう。いつもは無表情な顔に、険しい表情が宿った。
「私はあくまでもゲームとしてこのクジ引きを楽しみたいのであり、不正をしてまでお持ち帰りされたいとか、されたくないとかいう感情はありません。なぜなら私は、ここにいる四人とは違って、式見蛍になど男性的魅力を見いだしておらず、霊体物質化能力以外は全く興味は無いからです」
「ちょ……」
 今、姉が非常に不穏当な発言をした。その四人が抗議しようとしたが、姉はマイペースだった。
「そこまで疑うのでしたら、真儀瑠紗鳥、あなたが先にクジを引けばいいではありませんか。私は最後に残った一枚。それなら文句は無いでしょう」
 ふむふむ。蛍を含めて、全員が無言で頷いた。クジ引きの順番が入れ替わり、真儀瑠先輩が箱の中に手を入れる。
「どれにしようかな?」
 どれとは言うけど、二枚しか残っていないはず。迷っても仕方ないと思うんだけど。
「よし、これだ」
 妹さんほどではないけど、時間をかけてクジを選んだ先輩は、競技場にダントツ独走で戻ってきて勝利を確信したマラソンランナーのように、満面の笑みを浮かべた。どうしても必要な注釈だが、黙って笑顔を浮かべていれば、真儀瑠先輩は女優もびっくりの美人なのである。
 最後に、姉がゆったりとした動作で残った一枚のクジを引いた。これで五人の女性全員の手に、未開のクジが渡ったことになる。
 クジを引く瞬間より、全員でいっせいに開けるこの瞬間の方が、よっぽど心臓に負担がかかるわ。私の心臓は、今日何回目だろうか、激しいビートでハードロックを奏で始めた。無駄に循環する血液は、本来なら前身にくまなく回ればいいのに、なぜか首から上に集中しているというのがリアルに感じられる。またいつものように顔が赤くなっているに違いない。両耳も、ハロゲンヒーターのように熱くなっている。
「あ、先輩、当たりクジにはなんて書いてあるんですか?」
「……ああ、そうだな。先にそれを言っておこうか。当たりクジには『お持ち帰り決定』とボールペンで書いてある。ちなみに残り四枚のハズレクジは表も裏も白紙だ。……さあ、みんないっせいにクジを開け!」
 さっさと宣言して、真儀瑠先輩はさっさと自分のクジを開き始める。私は、今度は現実から逃げず目を背けずに行きたいと決意し、顔面の筋力を総動員して上と下の瞼を引っ張り、大きく目を開けたまま、二回折られているクジを開いた。たぶん、端から見れば私は滑稽な表情をしていたに違いないわ。
 私のクジは……白紙だった。
 ……
 念のため、表と裏を確認してみた。対角線に二本の折り目の付いた、正方形の白紙があるだけだった。ハズレだ。
 ほっとしたような。でもちょっと残念なような。でも複雑な感情を抱えて浸っている場合じゃない。すぐに起こる現実に向き合わなければならないのだ。つまり、誰かが当たりクジを引いて、蛍にお持ち帰りされる、という残酷な事実を。
「やったー、私が兄さんにテイクアウトされることになっちゃったー!」
 叫んでみんなにクジを見せびらかしたのは、満面の笑顔の妹さんだった。確かにそのクジにはボールペン字で『お持ち帰り決定』と書かれていた。
 つまり。
 合コンで。兄が。妹を。お持ち帰りする。
 不潔。
 そもそも合コンでお持ち帰りなんてこと自体が不潔きわまりないけど、ましてやそれが、血を分けた実の妹だなんて。ありえないわ!
「蛍! 常識で考えてよね! 実の妹をお持ち帰りなんて、もちろんしないでしょ?」
 私は思わず蛍を睨みつけた。蛍はというと、特に動揺した様子も無い。普通だ。いつも通り、ちょっと無気力っぽくて「死にてぇ……」なんて意味もなく呟いている時のような表情で、静かに座っている。
「何故だ? 何故、傘ちゃんがこのクジで当たりを引くんだ? 傘ちゃん、何か不正をしたんじゃないのか?」
 自分が引いた白紙クジを呆然とした表情で裏表何回もひっくり返して眺めていた真儀瑠先輩が、目つきを厳しくして妹さんを睨んだ。……といっても、先輩には妹さんは見えていないはずだけど。視線だけで人を殺せる、という表現があるが、この場合は先輩の視線だけで生き霊の妹さんを消滅させてしまいそうだ。
「不正なんかするわけないじゃないですか。不正だっていう証拠があるんですか?」
 妹さんも負けてはいなかった。ここで譲ったら蛍の妹の名折れだとでも思っているのか。真儀瑠先輩を相手に、真っ向から睨み付けた。
 でも先輩は無反応だ。妹さんの声が聞こえていないからだ。自分の声が相手に届いていないと遅まきながら気付いた妹さんは、なぜか私の方に視線を向ける。
「神無さん、私の言ったことを真儀瑠さんに通訳して伝えてください」
 ……てか、私がこの場における専属通訳扱いになっている? それもただ働きで?
 別にいいけど。蛍か姉かが通訳しなければ、話が全く進まない。蛍や姉に通訳を任せると、なにか私に不利なことを言われそうでコワイから、予防線を張る意味でも、私が一肌脱ぐのがいいだろう。
「不正の証拠があるんですか、と妹さんは言っています」
 私の通訳を受けて、真儀瑠先輩が言葉に詰まった。妹さんが不正を行ったという確信があって言い募っていたわけではなかったらしい。
 と、思ったら、意外な人物が席から立ち上がった。
「真儀瑠紗鳥、これはどういうことですか。これでは話が違います。クジにしかけがあって、私がお持ち帰りになると決まっていると聞いているからこそ、忙しいところをわざわざ来たのですよ。合コンの費用を全額私が出すという条件でしたが、こういうことなら、その話は無かったこととさせていただきます」
「えええっ!」
 驚愕の事実が、今、発覚した。姉と先輩が結託して、不正を働こうとしていたのだ。……そして、なぜか失敗した。
 失敗したとはいえ、私は穏やかな気分ではいられなかった。合コンでのお持ち帰りというのもだけど、クジに細工をして不正だなんて、不潔だわ。
 さっきまで和気藹々としていた合コンの場は、一転、ドロドロの陰謀劇に転じつつあった。……いや、さっきまでのあの無理無体な女王様ゲームのことを和気藹々と称していいのかどうかは別問題としておいて、だけどね……
「待て待て、今、お姉さんが酔っぱらって、意味不明なことを言ったけど、私とお姉さんが結託してクジで不正を行ったという証拠があるのか? もし不正を行ったなら、なぜ傘ちゃんが当たるというのだ?」
 先輩、お酒が入っているせいもあるのだろうけど、目が据わっている。これは完全に開き直りモードに入った。合コンはお開きになる前にもう一波乱が巻き起こり始めている。
 ここで勝ち誇ったように笑ったのは、妹さんだった。
「へへーん。実は私、昨日の内に真儀瑠さんの家に行って、一部始終をずっと見ていたもんねー。神無さんのお姉さんと電話で取引しているのも最初から最後まで全部聞いていたし、、クジに仕掛けをしている場面も全部見ていたもん!」
 更に仰天発言が飛び出した。
「ちょっと妹さん、どういうこと? 先輩がクジに仕掛けをしていたの? 詳しく話して!」
 先輩が何事か喚いているが、すっぱり無視。私も、ユウさんも、蛍も深螺さんも、妹さんの方を注視した。
「この箱の中は、セロテープで当たりクジを上の方に貼り付けてあったんだよ。私はそれを知っていたから、当たりクジを剥がして取って、代わりに残っていたハズレを貼り付けたんだよ。悪いことはできないよねぇ。天なんとかかいかい、なんとか漏らさず、って言うよねぇ」
 そんな、なんとかなんとかばかりで全然分からないんだったら、無理して博学ぶって難しい語なんか使わなければいいのに。私もその天なんとかという慣用句は知らないけど。
 妹さんの証言を受けて、ユウさんがダンボール箱を手に取り、ガムテープを剥がして分解し始めた。真儀瑠先輩が小さく舌打ちしたのが聞こえた。
「本当だぁ! セロテープが残っている!」
 ユウさんはみんなに見えるように、展開したダンボールを示した。手を入れる円い穴から少し離れた横に、輪にして両面がくっつくようにしたセロテープがあった。今なら分かる。妹さんがクジを引く時に、散々迷って時間をかけていた理由が。あれは迷っていたのではなく、貼られた当たりクジを外して、ハズレクジを付け替えていたから時間がかかっていたのだ。
「はっきりとした不正の証拠も残っているし、このクジ引きは無効だね!」
「ユウさんの言う通りだわ! クジ引きは無効!」
「え! 無効じゃないよ。私が当たりなんだから!」
 不正を働いた先輩と姉をみんなで弾劾する、という方向に行きかけていたんだけど、結束は一枚岩ではなかった。私利私欲に走った結果、クジ引きの結果を無効とするか有効とするかで意見が割れた。……なにやってるんだろ、私たち。
「当たりクジを知っていてクジを引いた人がいる限り、このクジ引きは無効ですね」
 姉が冷たい口調で言い放つ。よく考えると、姉が最初に不正をやろうとしていたのに、随分と身勝手な言い種だ。
「この結果は私にとって望ましいものではないな。このクジ引きは無効だ。セロテープ無しで、もう一度最初からクジ引きのやり直しだ」
 クジ引きを企画した張本人の先輩までもが無効と言う。
「う……有効を主張するのは私だけなんだ……」
 四対一。多数決だったら圧勝で、クジ引きは無効ということになる。でも妹さんは、当たりクジをしっかり握り締め、一歩も退かない構えだ。心なしか、普段は可愛らしい目がちょっと血走っているようにも見える。これは、合コン散会前に事態は紛糾しそうだ。
「先輩、クジ引きをやり直す必要なんて無いですよ。最初から、誰かをお持ち帰りだなんて、不潔です。クジ引きは中止ってことにしましょう!」
「そうは言うが、巫女娘だって緊張した面持ちでクジをひいていたじゃないか。本当は当たりが出るのを期待していたんだろう。中止はあり得ないな」
「鈴音の意見には同意できません」
「当たりはあくまで私なんだから!」
「中止はダメだよ。やり直しだよ!」
 私の意見は、四人全員に反対されてしまった。もうみんな我田引水を狙っているというか、自己都合に走って無法地帯だ。超個性派集団帰宅部の本領発揮といったところだ。
 わさびよりもアルコールよりもぴりぴりした空気が、浮遊霊と生き霊とハイパー巫女と横暴帰宅部長と常識的一般人の間に渦巻いた。
 五人がそれぞれ個人的思惑を持って、一歩も譲らぬ構えだから、事態を打開できるのは……
 蛍。
 黒一点の、死にたがり現守高校二年生しかいない。
 誰かが言い出したわけでも、申し合わせたわけでもないが、女五人衆はそろって蛍の方に目を向けた。とにかく鈍い蛍ではあるが、さすがにこの場では注目されて意見を求められていることを悟ったのだろう。ちょっと居住まいを正して、静かな口調で自身の意見を述べ始めた。
「僕は……クジ引きの結果は有効でいいと思います」
 一瞬の静寂。
「ほらほらほら、やったやったやった。私が兄さんにお持ち帰り! やっぱり兄さんは人間が出来ているよねぇ!」
 ああ、なんということでしょう。嘆かわしい……
 私は見習いではあっても神無家の一員であって、苗字からも分かる通り、神に仕えている巫女ではない。自分の苗字の漢字を説明する時には、「神様バカヤローの神」と言うくらい、神なんか信じちゃいない。そんな私でも、神に祈りたい気分だわ。いや、祈るのではなく、バカヤローと文句を言いたい。
 居酒屋の空気が、どんよりと重くなったように感じる。タバコの煙が濃くなったから、というよりは、単なる気分の問題による錯覚なのだろうが。肺の中にタバコのタールとニコチンと一緒に、熱く溶けた鉛を流し込まれたような不快感だ。
 妹さん以外の女性メンバーが文句を言い募ろうとするところへ、蛍はオーケストラの指揮者のように手を上げて、他者の発言を遮った。
「だって、よく考えてみてくださいよ。クジ引きするしない関係なしに、傘は幽体離脱して北海道からこっちに来ている時は、僕の部屋に寝泊まりしているんですよ。今晩、仮にクジ引きを無効としても、傘とは一緒にアパートに帰るんです。傘だけでなくユウも一緒ですけどね」
「……あ」
「……う」
「……お」
 私、姉、先輩が、一言だけを発して絶句した。言われてみれば、その通りだ。
「じゃケイは、クジ引きの結果関係無しに、私のことをお持ち帰りしてくれるつもりだったんだねぇ! 嬉しいー! やっぱり蛍大好き!」
 ユウさんは非常に自分に都合の良い牽強付会な解釈をして、隣の蛍に抱きついた。それはもう、東西の横綱が土俵の中央でがっぷり四つに組んだみたいな格好だ。
 正面を見ると、真儀瑠先輩が釈然としない表情を浮かべていた。
「クジ引きが無効で、ユウと傘ちゃんだけがお持ち帰りというのでは、合コンとしての醍醐味が著しく欠けるではないか。そんなのは帰宅部部長として、断じて認めるわけにはいかない。……よし、こうしよう」
 先輩はにやり、と蛍の方を流し目で見た。色っぽい仕草なのかもしれないが、ユウさんに抱きつかれたままの蛍は体を震わせた。無理矢理風呂に入れられて濡れた哀れな黒猫みたいだった。
「ど、どうするというのでしょうか、先輩……」
「ユウと傘ちゃんだけでなく、ここにいるメンバー全員をお持ち帰りということにする。そして、後輩のアパートで、ジュースとお菓子で二次会だ!」
 蛍の口からは「え」に濁点を六つくらい付けたような、ガマカエルが踏みつぶされたような濁った声が漏れた。
「文句はあるまい。きれいどころ五人をお持ち帰りなんて、普通の合コンでは体験できないことだぞ。ちなみに、ジュースとお菓子の代金は、ホストの後輩持ちだからな。よろしく」
「そ、そんな……ちょっともう僕的には財政すごいピンチなんですけど……」
 蛍の弱々しい反論だが、横暴な帰宅部部長は聞いちゃくれない。
「金が無いなら、また女装のバイトを紹介するから、働けばいいだろ。どうだ、巫女娘、お姉さん。五人全員でお持ち帰りされて、後輩の部屋で二次会。費用は全額後輩持ち。来るだろう?」
 先輩は「行くだろう」ではなく、「来るだろう」と言った。もう既に、二次会実施は決定事項なのだ。
「せっかくですから、私は参加させていただきましょう。……鈴音はどうします?」
 これで、ユウさん、妹さん、先輩、姉の四名が参加決定だ。ここで、私一人だけがこのまま帰宅してしまうというのは、いかに帰宅部とはいえ、なんだか癪だわ。
「わ、私も二次会に行ってみようかな……お、お持ち帰りされるわけじゃないんだからね。勘違いしないでよね、蛍」
「僕も含めて六人分のジュースとお菓子を買わなくちゃならないのか……死にてぇ」
 蛍はぼやいた。死にたがり美少年式見蛍君の口癖だから、女性メンバー五人全員がするっとスルーする。
「よし、それでは店を出よう。支払いは、後輩、お前が頼むぞ」
「え?」
 ようやくユウさんが離れてくれて、おそらくは色々な意味が籠もっているであろう深い深い溜息をついていた蛍が、幹事である先輩のサプライズ発言に顔面を蒼白にしていた。
嫌いなタバコの煙が漂ってくる環境を我慢して疲弊していたであろうに、蛍に対してはこれ以上ない追い打ち通告だ。
「後輩よ。合コンというのは、男が女の分の会費も払う。そういうものだろ?」
「え。だけど先輩。『会費はこっちで払うから、後輩はお金の心配をしなくていいぞ』って言っていたじゃないですか。だから僕、参加したんですよ。さっき、深螺さんがこの場の全額を持ってくれるって……」
「お持ち帰りのクジ引きが無効になったからには、その約束も無効です。……まあこの場は私が立て替えてもいいですが、後で必ず返してもらいますよ。それでよろしいですか、式見蛍?」
 冷酷なプロである姉の物言いは、氷よりも液体窒素よりも冷たかった。
 私を含めて五人の女性がわいわいと楽しく店を出る中で、一人最後尾の蛍だけは、がっくりと肩を落としていた。
 姉が四人分食べ放題の料金を払う。あの若い男性店員が、すれ違いざまに私たち一人一人に対して「ありがとうざいました、ありがとうございました、ありがとうございました、ありがとうございました」と大きな声で挨拶した。
 店の外はすっかり暗くなっていて、空には星が瞬き始めている。ふと横を見ると、小上がり席で一気飲みをしていたOLさんと、会社の同僚たちと思われる一団が、次の二次会の場をどこにするか相談していた。夜は、これからだ。彼らも、私たちも。
「はぁ……死にてぇ……いや、もうお金が無い。リアルで餓死できる……ううっ、美少女五人と合コン……美少女なんて、大嫌いだ……」
 蛍は世の男性の九十九パーセントを敵に回す発言をした。項垂れているので、目が長い前髪に隠れ、表情は窺えない。
 五人、ということは、私も一応美少女として数えられている。それがほんのちょっぴりだけど、嬉しかった。お酒のせいではなく、胸がぽっとあたたかくなった。


メイド服、巫女衣装で萌える?

連珠。または五目並べ。●●●●●

連珠。または五目並べ、というのは、おそらく誰もが知っていると思います。
碁盤に、碁石の黒と白を交互に打って、五個一列に並べれば勝ち、というのが基本。
先手は黒だけど、黒の側にはいくつか禁じ手があります。
例えば、三三、四四、四三三、長連勝ち、は禁じ手です。
白には禁じ手がありません。
で、私のパソコンにはゲームパックの中にデフォルトで五目並べがあります。
やってみました。
基本的に、自分は黒でプレイします。
一番難しいバージョンだと、コンピューター相手にたまに負けます。
簡単なバージョンだと、コンピューターは、かなり奇怪な手を打ちます。いや、難しいバージョンでも、最初の頃にこちらが奇怪な手を打つと、コンピューターも奇怪な手を打つのです。
あまりにも簡単に勝ててしまうので、面白さという意味ではイマイチかな。でも、運の要素は無しに簡単に勝てるからこそ、ストレス解消としてはまあまあいいかも。
連珠はシンプルだけど、楽しいゲームです。碁盤さえあれば、年齢に関係なく楽しめますね。


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テーマ:懐かしのゲーム - ジャンル:ゲーム

経済大国の幻想。感覚の問題とはいえ、それでいいのかな?

先日、ネット上をぶらぶらのぞいていて、現代日本における生活感覚のニュースがありました。
それによると、半数以上の家庭が、生活が苦しいと感じているとか。
まあもちろん、この調査自体、「感覚」についてのことですから、まったくぴったり割り切れる正確な数字など出ることはありえないのですが。
それにしても、半分が苦しいというのは、多いような。
昔は、大部分の家庭が「中流階級」意識を持っているのではなかったでしたっけ?
中流階級なら、良くはないけど、そんなに悪くもないだろう、という考えだったはず。
そこそこ余裕があってのことだと思うのです。
それが今は半分が苦しい、と。
ワーキングプアってやつでしょうか。
そりゃもちろん、アフリカあたりの、戦争や飢えで困窮している国の苦しさとは質が違うでしょうし、地球上全体で見れば、それでも恵まれている部類なのは事実でしょう。
でも豊かな国ならば、支出も多いわけですしね。
経済大国だといってエラい人は喜んでいるようですが、これって意味あるのですかね。富はごく一部だけに集中して、その部分だけを見て経済大国?
苦しいと感じる家庭がゼロになることはもちろんあり得ないにしても、この数字が少なくなるような経済政策が行われればいいですね。


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テーマ:格差社会 - ジャンル:政治・経済

マタニティー、ベビー用品の需要か……

amazonのページを見ると、最近ベビー&マタニティというショップができたようです。
あ、いちおう分からない方のために言っておきますと、マタニティというのは妊婦のことです。
そういえば最近は郊外型店舗の中には、ベビー用品専門店、なんかも進出しているようで、これをちょっと不思議に思っていたのですよね。
だって最近は少子化が叫ばれている。つまり、子供の数は減っている。それなのに、ベビー用品なんて売れるのかな、と。
でも、こうしてアマゾンでも専用ページができて、ベビー用品店が伸びているということは、売れているんでしょうね。
考えてみたのですが。
少子化だからこそ、少ない子供のために集中的にいい物を買ってお金を使っている、ということなのでしょうか。
そういえば数年前にラジオで聞いたのですが、今の時代の子供というのは六つの財布を持っているとか。
両親と、父方と母方それぞれの祖父母。合計六人分の財布。
祖父母に該当する人って、団塊の世代の方が多いようですね。2007年問題とも言われていますが、仕事は定年退職して悠々自適。日本の高度経済成長を支えて一生懸命働いていたし、今はまだ年金制度も辛うじて保っているから、お金は持っている。でも仕事一辺倒だったから趣味が無くてお金の使い道が無いという人も、案外多いかもしれない。
そうなると、かわいい孫のために金を使うのが嬉しい。
そういうことでしょうか?
筋道が正しいかどうかは分かりません。でも仮にそうなのだとすると、これも逆転の発想なのだろうな、と思いました。
少子化なんだから、ベビー用品なんかジリ貧で売れるはずがない、という先入観を抱きそうなところですが。団塊の世代とか現在の親の心境などといった周囲の状況を考慮した上でいくと、ベビー用品でも充分に商売ができる。


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テーマ:マタニティライフ - ジャンル:育児

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